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社説・コラム

『潮流』 孫には話せる

■論説委員・平井敦子

 子どもには決して話さないのに、なぜか孫には話している―。被爆体験をどう語り継ぐかを取材すると時折、そのことが話題になる。

 広島県被団協(坪井直理事長)の前事務局長、清水弘士さん(74)も「うちの兄もそうでね」と言う。「暗い話は嫌」と繰り返してきた兄が、孫娘を膝の上に乗せて子守しながら「あんときゃーのー」と話していたと後で知り驚いたそうだ。お兄さんの娘は自分の子どもから間接的に、わが父の体験を聞いたという。

 子どもに話さない理由は人それぞれに違うのだろう。子どもの健康や結婚、就職に及ぼす被爆の影響を心配して、隠し続ける人もいる。つらい記憶を思い出したくなくて、いまだに「話せない」人もいる。

 だからなのか。県被団協の被爆2世部会が2年前に行ったアンケートでは、親の被爆体験を「ほとんど聞いていない」と答えた2世は、2割にも及ぶ。

 それが、孫世代になら伝えやすいのだろうか。

 被爆体験に限らず、そうした傾向はあるようだ。文化人類学では、冗談を言い合うなど屈託なく話し合える関係のことを「ジョーキング・リレーションシップ」という。家族の中ではとりわけ、祖父母と孫との間によく見られるとも。

 子どもには生き方のモデルを示さねばと何かと肩に力が入りがちだが、孫とは打ち解けた関係を築きやすい。その分、いろんな話ができるということらしい。

 きょう、あの日から71年。被爆者の高齢化が進み、体験を直接聞けなくなる日が迫る。できる限り肉声に触れるには、孫世代との交流を深めることもその一歩となりそうだ。

 被爆2世部会の遊川和良事務局長(69)は「家族みんなで集まる機会をなるべく持つことを、あらためて広く呼び掛けたい」と語る。

 世代を超えた語らいの温かさは、きっと「継承」の力になる。

(2016年8月6日朝刊掲載)

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