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NPT再検討会議準備委 核の非人道性に焦点

 オーストリア・ウィーンで4月末から2週間あった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会。核兵器保有国に核軍縮の新たな動きが見えない中、スイスなど16カ国の共同声明が注目を集めた。核兵器の非人道性を前面に非合法化を求める内容は、被爆地の訴えと重なり、2015年の再検討会議に向けた各国の交渉に影響力を持つ可能性がある。(田中美千子)

 「核兵器の使用は国際人道法に触れる。全ての国が非合法化に努めてほしい」。16カ国を代表し、スイスの国連大使が声明を読み上げた。「NPTを再検討する過程で、核兵器の非人道性を取り上げるべきだ」。ノルウェーも、核兵器の非人道性に焦点を当てた国際会議を13年春に開くことを明らかにした。

 共同声明はこの二つの国が主導。核軍縮に積極的な「新アジェンダ連合」(7カ国)のエジプトやメキシコ、核兵器禁止条約の実現を目指すマレーシア、コスタリカなどに呼び掛けた。

 なぜ今、核兵器の非人道性に焦点を当てるのか―。起点は、10年の前回再検討会議で合意した最終文書にある。「核兵器のいかなる使用も人道上、破滅的な結果をもたらす」と明記し、「全ての国が国際人道法を含む国際法に従う必要性」を確認したためだ。

 被爆地はこれまで一貫して核兵器の非人道性を告発。国際司法裁判所(ICJ)は1996年、「核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に違反する」との勧告的意見を出した。しかし、その後の保有国の削減の動きは鈍いばかりか、新たな核開発や拡散が進む。

 「核軍縮の議論では各国は安全保障を重視する。実は、NPTをめぐる国家間の交渉で非人道性を問う視点は抜け落ちていた」。ノルウェー外務省安全保障・北部地域局のインガ・ニイハーマル次長は説明する。

 準備委を傍聴した非政府組織(NGO)からは声明を評価する声が相次いだ。京都大の浅田正彦教授(国際法)は「賛同国が広がれば、核保有を正当化する国への圧力になる」と注目する。

 被爆国日本はしかし、声明に名を連ねていない。「発表まで知らなかった」(外務省)からだ。NGOからは「核抑止力に依存する国が入ると動きが鈍ると判断された」との指摘もあった。

 日本は、この声明の輪に加わり、リードすることができるのか。それは、核大国の「核の傘」の下にある現状を問い直すことから始まる。

日本の対応 今後議論

■ジュネーブ軍縮会議政府代表部 天野万利大使

 日本の核軍縮外交を担うジュネーブ軍縮会議政府代表部の天野万利大使(62)に、第1回準備委の手応えや課題などについて聞いた。

 ―準備委の評価は。
 いい滑り出しだ。2007年にあった、前回のNPT再検討会議の第1回準備委は議題の決定から難航したが、今回は混乱なく協議が進んだ。10年の再検討会議が成功裏に終わったことが理由の一つ。その成果を無駄にすまいと各国が自制を効かせていた。

 ―スイスなど16カ国の共同声明で「核軍縮の人道的側面」が注目されました。
 国家レベルの新たな提案であり、15年の再検討会議に向け、注目される論点の一つになりそうだ。日本としてどういう立場で臨むか外務省で議論してもらう。

 ―核軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)が14年、広島で外相会合を開きます。
 NPDIは、前回の再検討会議で合意された行動計画の実施を後押ししようと、日本など10カ国で発足した。再検討会議の前年の広島開催は、盛り上がりが期待できる。会議の方向性は意外なほど開催地に影響される。被爆地ならではの議論に期待したい。

 ―核軍縮の課題は。
 ジュネーブ軍縮会議(CD)は兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉が行き詰まっている。主な原因はパキスタン。インドとの経済、軍事格差が埋まるまで交渉できないと主張しているためだ。

 CDには全ての核保有国が入っているが、1カ国でも反対すれば交渉に入れない決まりだ。NPDIでCD以外の交渉の場も模索するが、核分裂性物質をつくったり、持ったりしている国を参加させられなければ意味がない。交渉開始を説得しながら、あらゆる可能性を探っていく。

(2012年5月21日朝刊掲載)

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