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原爆手記 生と死対峙 劇場版「いしぶみ」 是枝監督語る 綾瀬はるかが朗読

 映画「いしぶみ」は、学徒動員中の1年生321人が原爆で全滅した広島二中(現観音高)の犠牲者の姿や最期に、遺族の手記の朗読で迫る。「そして父になる」で知られる是枝裕和監督は、本作で初めて戦争をテーマに扱った。「この国はもはや戦前にいる。製作者として何ができるのか考えていきたい」と語る。(余村泰樹)

 本作は、広島テレビが1969年に制作した番組「碑(いしぶみ)」のリメークで、昨年8月にテレビ放送した番組を劇場向けに再編集した。69年は、遺族の証言を広島市出身の俳優杉村春子が朗読し、ギャラクシー賞などを受賞。今回、同市出身の綾瀬はるかが語り部を務める。

 「十数万人が亡くなったという数だけでなく、一人一人の顔が具体的に浮かび上がるようにしたかった」と是枝監督。綾瀬の朗読が引き立つよう、生徒の顔写真をスタジオ内の木箱に投影するシンプルな演出にした。「繊細な語り口に写真の顔が動き、生きているようだった」。戦中の子どもの笑顔の写真も挿入し「続くはずの日常が断ち切られる残酷さ」を描く。

 あの日、体調不良などで学徒動員に参加せず生き残った同級生や教員の子孫をジャーナリスト池上彰さんが取材した映像も交えた。「いろいろな思いを抱えてきた人たちの生の物語と、死の物語とを対峙(たいじ)させることで、失われたものがより浮き彫りになった」

 是枝監督は以前から、戦後生まれが戦争をどう伝えるか考えてきたという。シベリア抑留を経験した父や東京大空襲に遭った母から聞いたのは、自らを被害者と捉えた体験談。「市井の人が戦争を被害体験でしか語れないのは仕方ない。戦争を知らない僕らにできるのは、加害者の視点も加えて歴史を相対化し、共有財産とすること」と考える。

 今回、綾瀬には、生徒を戦争に巻き込んだ罪の意識を持つ教員の気持ちで朗読するよう求めた。生徒たちが最期、肉親よりも天皇陛下の名前を叫んだ事実に、当時の教育の罪深さを感じたからだ。

 「あの戦争は何だったのか。戦後自分たちが何を忘れ、捨てて生きてきたのか。誰が犠牲になっているのか。ちゃんと向き合っていきたい」

 「いしぶみ」は、広島市中区の八丁座で上映中。尾道市のシネマ尾道、福山市の福山駅前シネマモードで6日から上映する。

(2016年8月6日朝刊掲載)

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