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社説・コラム

湯崎英彦広島県知事あいさつ 広島原爆の日式典

 原爆犠牲者の御霊に、広島県民を代表して、謹んで哀悼の誠を捧げますとともに、今日なお、後遺症で苦しんでおられる被爆者や、ご遺族の方々に、心からお見舞い申し上げます。

 1945年8月6日朝、原子爆弾がさく裂し、爆心地から約300㍍にあるこの場所は、3千度前後に熱せられ、約90シーベルトの放射線にさらされた上、1平方㍍当り25㌧の爆風圧によって吹き飛ば されました。この原爆投下の結果、同年12月までに、約14万人が亡くなりました。

 人類はその後、仮に核攻撃を受けても確実に反撃して相手を壊滅させる「相互確証破壊」という論理を構築し、それを「戦略」と呼んで核兵器を製造し続け、今でも1万5395発の核兵器を積み上げています。そして、このような「戦略」を支持する人々は、これで自国や人類は安全だ、と主張しています。

 核抑止力を含む核戦略の信奉者の多くは、このような数字や、戦略と呼ばれる観念に基づいた議論をしてきました。

 核兵器は、しかし、このような数字や観念で語られるものなのでしょうか。人類は本当にこれで安全なのでしょうか。

 熱線を受けた赤ん坊は皮が丸むけの肉の塊となり、放射線を受けた女学生は体中の毛髪が抜けて紫色の斑点を浮かべ、爆風を受けた体からは内臓や目玉が飛び出し、そして死んでいった、と被爆者は証言します。その一人ひとりに、かけがえのない思い出や輝くべき未来がありましたが、それらは全て失われました。これが数字や観念ではない、核兵器使用の現実であります。

 本年5月、米国オバマ大統領に広島を訪問いただきました。原爆投下の当事国であり、また現在も最大の核兵器国の最高責任者として、訪問を決断いただいた勇気と、核兵器廃絶に向けた固い決意に、心から敬意を表します。そして、大統領は、演説の中で、原爆投下時にも、一般市民の平穏な愛情あふれるごく普通の生活があったであろうことに触れ、被爆して亡くなっていった無辜の人々に思いを寄せてくださいました。

 今、世界の政治指導者に必要なものは、このような想像力、ではないでしょうか。

 安全保障の分野では、核兵器を必要とする論者を現実主義者、廃絶を目指す論者を理想主義者と言います。しかし、本当は逆ではないでしょうか。廃絶を求めるのは、核兵器使用の凄惨な現実を直視 しているからであります。核抑止論等はあくまでも観念論に過ぎません。

 核抑止論は核が二度と使われないことを保証するものではありません。それを保証できるのは、廃絶の他ないのです。

 被爆者は複雑な思いを抱えながらも「自分達の苦しみを他のいかなる人にも経験させたくない」という強い願い、まさに被爆の現実を知る体験から、核兵器廃絶を訴え、政治指導者の被爆地訪問を呼びかけて来られました。

 今、改めて、世界の、特に核兵器保有国の政治指導者に、広島及び長崎訪問を呼びかけます。そして、核兵器使用の現実を直視してください。

 広島県としても、「国際平和拠点ひろしま構想」に基づき、核兵器廃絶に向けた方策の議論を深めるとともに、核兵器のない平和な世界へ力強く道を切り拓いていける、国内外の次世代の育成などに取り組んでまいります。

 結びに、すべての被爆者の方々に対する責務として、将来の世代に、核兵器を廃絶し、誰もが幸せで豊かに暮らすことができる平和な世界を残すことができるよう、世界の皆様と、共に行動していくとともに、高齢化が進む国内外の被爆者援護のさらなる充実に全力 を尽くすことをここに誓い、平和へのメッセージといたします。

平成28年8月6日
広島県知事 湯崎 英彦

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