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「祈りの日」平和紡ぐ 慰霊碑に献花の列/国内外の若者集う 8・6ドキュメント

0・00 飲食店経営の城川喜代登さん(61)=広島市南区=が1人で静かに原爆慰霊碑に手を合わせた。昨年5月、入市被爆者の父を亡くした。被爆体験を話さなかった父。「自分も市内に住んでいながら無関心だった…」。父の死で新たな思いを抱く。「被爆2世の私たちが次世代に伝えていかないと」。父に約束した。

0・20 祖父が被爆者の西区の庚午小6年永田彩さん(11)が妹の同小3年舞さん(8)と2千羽の折り鶴を原爆の子の像にささげた。きょうだい3人で1年かけて折った。彩さんは「祖父の体験をしっかり聞きたい」。

1・00 原爆ドーム前で、大学生5人が被爆者の横見靖夫さん(85)=大阪府高槻市=の証言に耳を傾けた。韓国人留学生の早稲田大2年李宜真(イイジン)さん(23)=東京都=は「核実験を続ける北朝鮮を警戒し、韓国は武装を強めている。過ちは繰り返してはいけない」。母国で被爆者の話を紹介すると心に固く誓った。

2・40 西区の小倉邦雄さん(75)が原爆ドーム前に立ち、カメラのシャッターを切った。ドームが発信するメッセージに心を澄ます。「ヒロシマはいまだに放射線の影響で苦しんでいる。訴える作品を撮影したい」

4・10 高齢の2人が原爆慰霊碑前で手を合わせた。現在の台湾の戦地にいた時、中区の自宅が被爆し、両親と弟、親戚計8人を亡くした安佐北区の横山敏之さん(90)と、妻ヨシエさん(87)。「オバマ大統領が広島に来たのは事実に目を向ける意味で良かった。でも死んだ者は帰らん」。複雑な心境を吐露した。

4・25 原爆ドーム前のベンチで派遣社員中岡忠司さん(38)=中区=は夜明けを待った。宇品町(現南区)で被爆した祖母は2年前に他界。2人で何度も平和記念公園を訪れた。「オバマ大統領の姿を祖母に一番見せたかったですね」

5・20 8月6日に親子2人で原爆慰霊碑前に来たのは初めてという安芸区の会社員吉田直彦さん(48)。「母が元気なうちに来たかった。仕事が休め、ようやく実現できた」。母直美さん(77)は爆心地近くで母と弟を亡くした。「連れてきてくれてありがとう」。涙を流す母。吉田さんの目も潤んだ。

6・30 原爆慰霊碑前に献花の列が伸びる。花を手向けた西田滋さん(80)=安佐南区=は南区で被爆した。「悲惨さは語り尽くせない。多くの人に犠牲者への鎮魂の思いを持ち続けてほしい。そうでないと再び戦争が始まりそうで…」

8・00 リオデジャネイロ五輪の開会式が始まった。友人と初めて広島を訪れたチェコのカテリーナ・ハラデスカさん(25)は平和記念式典の会場へ急ぐ。「ともに平和を願う行事。世界が平和を祈る日になれば」

8・15 爆心地の島外科内科(中区)に約20人が集まり、慰霊碑に水をかけ、黙とうした。被爆建物などを巡る平和学習で訪れた兵庫県西宮市の高校1年榎並光奈恵さん(15)は「熱い熱いと死んでいった人を思い、水をかけた」。若い世代の役割を自問自答した。

10・15 原爆資料館は見学者でごった返す。オバマ大統領が寄贈した折り鶴の展示コーナーは人が絶えない。新潟県三条市の中学生を代表して平和記念式典に出席した3年竹内日菜乃さん(14)は5日、原爆の子の像に全校生徒の折り鶴を届けた。「オバマ大統領も私たちと同じように、核兵器のない世界への気持ちを込めて折ったはず」と話した。

11・00 広島市内の中高生ボランティアの「慰霊碑めぐりガイド」で、11人が「平和の観音像」前に到着。安田女子高3年岩本理沙さん(18)=東区=たちが、壊滅的被害を受けた中島本町(現中区)の住民をしのぶ碑の由来を説明した。「ここに当たり前の暮らしがあったことを知ってほしい」。岩本さんの言葉に熱がこもった。

12・10 「小さな子どもも多い。つらかっただろうな…」。国立広島原爆死没者追悼平和祈念館で、愛媛大2年玉井詩織さん(20)は遺影を映し出す画面に目を向けた。「この平和な時代を守っていくためにも、憲法9条は絶対に必要です」

13・55 静岡県富士宮市から訪れた小学1年植松颯馬君(7)が原爆ドーム前でスケッチを始めた。「学校の授業で学び、興味が出た。戦争の怖さが伝わるように本物に近づけたい」。夏休み明けに同級生に披露する。

15・45 7月に原爆ドーム東隣にオープンした「おりづるタワー」。帰省中の主婦岡美恵子さん(44)=大阪府吹田市=は、子ども2人と展望台から街並みを見渡した。「平和記念公園は緑が豊かで美しい。心が和んだ。復興を遂げたこの風景を見せることも平和教育ですね」

18・15 原爆資料館近くで、原爆の子の像のモデルとなった佐々木禎子さんのおいでシンガー・ソングライターの佐々木祐滋さん(46)=東京都=を約20人が囲んだ。自作の「INORI」を熱唱。「犠牲になった人々の魂に向けて歌った」

18・50 米国ブレマトン市の交換留学生3人が、原爆の子の像に呉市内の高校生と折った約3千羽の折り鶴を手向けた。国際ソロプチミスト呉の企画。

19・30 元安橋東詰めに、広島市内の幼稚園から大学生まで若者が作製した影絵24点が暗がりに浮かぶ。テーマは「つなぐ」。原爆ドームを手をつないで眺める少女と祖父の様子などに通行人が見入った。主催者代表で広島女学院大3年の河浜萌子さん(20)=佐伯区=は祖母が被爆者。「肉声を聞ける最後の世代かもしれない。記憶を未来につなぐのが使命」(樋口浩二、柳本真宏、森戸新士、田中謙太郎、坂本顕)

(2016年8月7日朝刊掲載)

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