×

社説・コラム

オバマ効果生かす行動を 

■報道部 岡田浩平

 広島は、5月のオバマ米大統領の訪問の余韻の中、被爆71年の原爆の日を終えた。オバマ氏が引きつけた被爆地への関心が「核兵器なき世界」に向けた弾みになる兆しを感じた。

 広島市中区の平和記念公園。未明から明け方、追悼する遺族に連れられた子どもの姿が、例年より目立った。平和記念式典を終えて間もない原爆資料館も混み合った。3歳の男児の遺品となった三輪車の前では、「爆弾が落ちたらこんなになるんだよ」と、母親が子どもに語っていた。

 約400点の被爆関連の実物資料が並ぶ見学ルート最終盤に、オバマ氏が寄贈した折り鶴の展示がある。この日も多くの人が取り囲んだ。6、7月の入館者数は前年同時期の4割増し。被爆の実態をより多くの人に知ってもらうという点で「オバマ効果」は確かにある。

 原爆の日を前にした中国新聞の取材に対し、被爆者や遺族の多くは、オバマ氏訪問を「意味があった」とした。しかし、その「歴史的」訪問の価値は、まだ定まってはいない。

 17分のヒロシマ演説で核軍縮に向けた提案がなかったことに、被爆者たちの不満はくすぶる。オバマ氏が来年1月の退任までに、検討しているとされる核政策の見直しにどこまで踏み込むのか。ヒロシマは、訪問の延長線上にあるその内容を、冷静に見極める必要がある。

 具体策を欠いたという点では、松井一実市長の平和宣言も同様だった。

 2期目に入った昨年から、市長は宣言に核兵器廃絶への「行動理念」を盛り込む。昨年は「人類愛」と「寛容」。ことしは「情熱」と「連帯」を選んだ。宣言で引用した一節は、オバマ氏の情熱が表れていると評した。

 その宣言に、どこまで訴求力があったか。式典に出席した安倍晋三首相の前で、政府が後ろ向きな核兵器禁止の法的枠組みを迫ってはいたものの、踏み込み不足の感は拭えない。

 市の式典とは別に、ことしも終日、市内各地で追悼の営みが続いた。平和記念公園南側の市立第一高等女学校(現舟入高)の慰霊碑。1年だった妹を原爆に奪われた被爆者の男性(85)は慰霊式後、「オバマさんの広島訪問を核廃絶へ生かすために私たちも行動しないと」と前を向いた。

 被爆地発の変化の兆しを、核兵器廃絶への道筋へと結び付けられるか。「あの日」を知る被爆者や遺族は老いた。初めて現職の米大統領を受け入れただけで満足している時間は、被爆地広島にはない。

(2016年8月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ