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社説・コラム

天風録 「伝える誓い」

 日本中が涙した映画から50年。原爆資料館で開かれている「愛と死の記録」の脚本などが並ぶ記念展に足を運んだ。白血病で逝く青年の後を追う幸せ薄い乙女―。吉永小百合さんがヒロシマと初めて出合った作品である▲ロケで原爆の傷痕に触れたのが「胸に深く残る」体験になった。そんなメッセージも届いている。伝えるのが被爆者の一番の願いと信じ、今に至るまで原爆詩朗読をライフワークとする▲映画にならずともむごい話は被爆地にはいくらでも埋もれている。71年目の朝を迎えた原爆慰霊碑を、夫を亡くした92歳の女性は初めて孫娘と訪れた。路面電車の中で被爆し命を拾った。語り継いでという思いが募る▲犠牲となった家族10人の名前を記す灯籠を初めて流した85歳の男性もいた。ずっと口を閉ざしてきた記憶を2年前から証言する。確かにあった生の営みを語り残すのは「遺族の使命だ」▲あの日のことを聞けない日が近づく。「伝える、受け止める。また伝える、また受け止める」。それがとても大切だと、吉永さんは非核を訴える写真集につづっていた。朗読活動は30年以上。実話を基にしたあのヒロインを心の中で演じ続けているのかもしれない。

(2016年8月7日朝刊掲載)

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