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被爆前後の広島 CGに 福山工業高 活動7年目 証言基に司令部など再現

 福山市の福山工業高の生徒が、被爆前後の広島市中区の爆心地周辺をコンピューターグラフィックス(CG)で復元している。活動は7年目。7月には広島城内にあった大本営や中国軍管区司令部のCGを完成させた。最新技術を駆使し、被爆者の記憶の保存に挑んでいる。(高本友子)

 CGは、被爆時に司令部で働いていた岡ヨシエさん(85)=中区=の体験を基に制作した。6月、本丸の一角に残る司令部の防空作戦室跡で岡さんから話を聞き、証言を撮影した。

 原爆投下時、岡さんは指揮連絡室にいて交換機の下敷きに。「広島が全滅した。新型爆弾にやられた」などと福山市の部隊に一報を送った。

 CGは8分間でタイトルは「継承」。岡さんが証言する様子と、被爆当時の再現映像を織り交ぜる。大本営の前を歩く人、司令部があった地下室で働く人々など被爆前の営みや、地上につながるわずかな空間から地下室に光と爆風が押し寄せた瞬間などを表現した。

 部長の3年坂本海月(みつき)さん(17)は「被爆者にしか分からなかった場面を再現した。その日、何があったのか知ってほしい」と語る。

■総文で優秀賞

 同校は2010年から被爆地の再現CGを作っている。今回の映像を作ったのは計算技術研究部の7人。これまで延べ約100人の生徒が、旧広島県庁や御幸橋など計11カ所を再現した。司令部のCG作品は、今年の全国高校総合文化祭の展示部門で優秀賞に輝いた。

 指導するのは顧問の長谷川勝志教諭(50)。原爆投下前に米軍が撮影した航空写真やポストカードなどを参考に、専用ソフトでCGを作る。放課後に3~4時間作業し、一つの建物に半月、1人に1週間ほどを要した。服のしわや人物の表情など細部も作り込む。岡さんに地下室の机の配置など細かい指摘を受けながら、リアリティーを追求した。

 生徒は制作の過程で被爆の悲惨さと向き合う。坂本さんは「やけどでただれた皮膚の写真など、被害を目の当たりにするのはつらかった」。眠れなくなった生徒もいたという。長谷川教諭は「ただ話を聞くより、自ら調べていく過程にも意義がある」と考える。

■人の動き記録

 今年からは、人の動きをデジタル化する「モーションキャプチャ技術」を取り入れた。データを収集するため人の頭から足先まで32個のセンサーを付け、動きを記録する。岡さんにもセンサーを付け、交換機を操作する業務などを再現してもらった。生徒が取った歩行などの動作データは50カットに及ぶ。約20万円する機材は部員約30人でお金を出し合って購入した。

 画像情報分野の人材育成などに取り組む画像情報教育振興協会(東京)によると、CGを専門的に学べる高校は少なく、全国的にも珍しい取り組みという。3年田丸卓(まこと)さん(17)は「最新の技術を使い、原爆の被害をより分かりやすく伝えたい」と話す。

 今後はバーチャルリアリティー(VR)技術の活用も検討する。専用の装置を目元に付けて爆心地付近を歩けば、被爆前の街並みが眼前によみがえる技術だ。長谷川教諭はCGの制作を通じ「将来にも役立つプレゼンテーション能力を身に付けてほしい」と期待する。

(2016年8月8日朝刊掲載)

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