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社説・コラム

天風録 「長崎原爆の日」

 被爆間もない長崎。その小学校に赴任した教師に児童が問うた。「先生のお父さんとお母さん、生きてる?」。うなずくと「よかねえ」と歓声が上がる。多くが原爆孤児だと悟って、涙で授業が続けられない▲「原子雲の下に生きて」の胸詰まる場面である。爆心地から700メートル、実に8割以上が亡くなった山里国民学校で生き残った子どもたちの証言集。深い傷を負い、貧しさと病の苦しみを強いられたさまが伝わってくる▲「戦争をしないぞ!」「むかしに返して…ああ、お母さんがほしい」。子どもたちの涙まじりの訴えは平和学習を続ける現在の山里小の後輩に受け継がれているに違いない。そして長崎の全ての子どもに▲ただ忍び寄る風化を恐れてのことか、きのう長崎市長は平和宣言で体験継承の大切さを訴えた。「未来のために、過去に向き合う一歩を踏み出してみませんか」と若い世代に呼び掛けた▲行動に踏み出した若者もいる。核兵器禁止を目指し、ネット上で国際署名を集める日本被団協の運動の先頭に長崎の被爆3世、林田光弘さんが立つ。「若い力で世界をつなぐ」と。語り継ぎ、受け継ぐ。風化にあらがう若者のリレーがもっと広がってほしい。

(2016年8月10日朝刊掲載)

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