社説 伊方原発 再稼働へ リスクの認識甘過ぎる
16年8月15日
きょう、瀬戸内海に面した佐田岬半島の愛媛県伊方町で、四国電力の伊方原発3号機が再稼働する。
東京電力福島第1原発の事故を受けて全国各地の原発が運転停止を迫られる中、再稼働がスタートしたのはちょうど1年前だ。九州電力川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)に始まり、今回の伊方3号機は5基目となる。このままなし崩しに進んでいいのだろうか。
さまざまな不安材料が積み重なっているからだ。最も大きいのは、地震への備えだろう。
ことし4月に震度7を2回観測した熊本地震は、活断層が原因とみられる。その震源域の延長線上の瀬戸内海の海底に走るのが、国内最大規模の活断層「中央構造線断層帯」。伊方原発はそのすぐ近くにある。
住民が不安に思うのも無理はない。あらためて活断層と耐震設計について点検し、説明を尽くすべきではないだろうか。
ひとたび地震が発生すると、原発事故に加え、土砂災害も重なる懸念がある。伊方原発の敷地は山や斜面が多く、その近くで住民が避難する施設も土砂災害警戒区域に入っている所があるという。半島の住民約5千人が避難できずに孤立する懸念も解消されていない。対策のほころびを放置したままでは済まされない。
鹿児島の川内原発は、熊本地震を受けて先行きが混沌(こんとん)としてきた。7月の鹿児島県知事選で再稼働容認の現職を8万票以上の大差で破り知事に就任した三反園訓(みたぞの・さとし)氏は、九電に川内原発の一時停止を要請する方針を示している。熊本地震の影響を、県民が心配していると考えるためだ。
九電は「安全を確認した」と説明しているが、知事の要請があれば真摯(しんし)に受け止めるべきだろう。いずれにしても川内1号機は10月、2号機は12月に定期検査に入る。三反園知事が検査後の再稼働に同意しなかった場合、それを無視して運転を再開するのは難しそうだ。
再稼働に対する民意をどうくみ取っていくのか。現行では知事に再稼働をやめさせる法的権限はなく、地元同意にしても立地自治体と道県に限られる。しかし、同意の対象を影響の大きい30キロ圏の自治体に広げるなど、民意を反映させる仕組みを整える必要がある。
この1年、再稼働に向けた手続きは進む一方、世論や司法によるブレーキが顕在化してきたことを重く受け止めたい。
関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)は、司法判断で運転差し止めとなっている。川内1、2号機が停止すれば、国内で動く原発は伊方3号機だけとなる。
それなのに、老朽原発の運転延長の動きが加速しているのは理解しがたい。原発事故の教訓から「40年ルール」を課したはずだが、原子力規制委員会は関電の高浜原発1、2号機の延長を認め、美浜原発3号機(福井県美浜町)も延命させようとしている。ルールの逸脱は「例外中の例外」ではなかったのか。
政府や電力会社の原発のリスクの認識は甘過ぎると、国民から非難されても仕方ない。政府は電源構成に占める原発比率を2030年までに20~22%に高める方針だが、このままでは無理があると自覚すべきだ。
(2016年8月12日朝刊掲載)
東京電力福島第1原発の事故を受けて全国各地の原発が運転停止を迫られる中、再稼働がスタートしたのはちょうど1年前だ。九州電力川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)に始まり、今回の伊方3号機は5基目となる。このままなし崩しに進んでいいのだろうか。
さまざまな不安材料が積み重なっているからだ。最も大きいのは、地震への備えだろう。
ことし4月に震度7を2回観測した熊本地震は、活断層が原因とみられる。その震源域の延長線上の瀬戸内海の海底に走るのが、国内最大規模の活断層「中央構造線断層帯」。伊方原発はそのすぐ近くにある。
住民が不安に思うのも無理はない。あらためて活断層と耐震設計について点検し、説明を尽くすべきではないだろうか。
ひとたび地震が発生すると、原発事故に加え、土砂災害も重なる懸念がある。伊方原発の敷地は山や斜面が多く、その近くで住民が避難する施設も土砂災害警戒区域に入っている所があるという。半島の住民約5千人が避難できずに孤立する懸念も解消されていない。対策のほころびを放置したままでは済まされない。
鹿児島の川内原発は、熊本地震を受けて先行きが混沌(こんとん)としてきた。7月の鹿児島県知事選で再稼働容認の現職を8万票以上の大差で破り知事に就任した三反園訓(みたぞの・さとし)氏は、九電に川内原発の一時停止を要請する方針を示している。熊本地震の影響を、県民が心配していると考えるためだ。
九電は「安全を確認した」と説明しているが、知事の要請があれば真摯(しんし)に受け止めるべきだろう。いずれにしても川内1号機は10月、2号機は12月に定期検査に入る。三反園知事が検査後の再稼働に同意しなかった場合、それを無視して運転を再開するのは難しそうだ。
再稼働に対する民意をどうくみ取っていくのか。現行では知事に再稼働をやめさせる法的権限はなく、地元同意にしても立地自治体と道県に限られる。しかし、同意の対象を影響の大きい30キロ圏の自治体に広げるなど、民意を反映させる仕組みを整える必要がある。
この1年、再稼働に向けた手続きは進む一方、世論や司法によるブレーキが顕在化してきたことを重く受け止めたい。
関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)は、司法判断で運転差し止めとなっている。川内1、2号機が停止すれば、国内で動く原発は伊方3号機だけとなる。
それなのに、老朽原発の運転延長の動きが加速しているのは理解しがたい。原発事故の教訓から「40年ルール」を課したはずだが、原子力規制委員会は関電の高浜原発1、2号機の延長を認め、美浜原発3号機(福井県美浜町)も延命させようとしている。ルールの逸脱は「例外中の例外」ではなかったのか。
政府や電力会社の原発のリスクの認識は甘過ぎると、国民から非難されても仕方ない。政府は電源構成に占める原発比率を2030年までに20~22%に高める方針だが、このままでは無理があると自覚すべきだ。
(2016年8月12日朝刊掲載)