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社説・コラム

『記者縦横』 被爆者運動 継承に期待

■東京支社・田中美千子

 被爆者の全国組織、日本被団協は10日、結成から丸60年を迎えた。誕生の地の長崎市で8日に開かれた記念祝賀会を取材し、活動を振り返るスライドを見て、運動の重みと継承の必要性をあらためて実感した。

 被団協は核兵器の廃絶と原爆被害への国家補償をひたすら訴えてきた。冷戦のただ中に反核の訴えを響かせたニューヨークでの大行進、夜を徹して援護拡充を訴えた旧厚生省前での座り込み…。モノクロ写真から熱気が伝わってくる。各地から集まった被爆者も「先輩方のおかげで今がある」「命ある限り、力を尽くそう」と気勢を上げた。

 スライドの制作は田中熙巳(てるみ)事務局長(84)が手掛けた。活動初期を知る仲間の多くは亡くなったが、運動は道半ばだ。何を目指し、どう闘ってきたか。次の世代に伝えておきたい―。そんな思いに駆られたという。

 祝賀会場でその意思を継ぐ若者に出会った。横浜市の林田光弘さん(24)。被団協が3月、核兵器を禁止し廃絶する条約の締結を求めて提唱した国際署名運動に賛同し、応援組織の事務局を買って出た。現在、大学院で被爆者の活動史を研究中。「運動を被爆者頼みにせず、思いに共鳴した人が当事者として動くべきだ」と確信を深めたという。

 田中さんは「自分たちのやり方でいい。核兵器廃絶への取り組みをつないでほしい」と話す。私たちに何ができるのか。被団協の歩みを知り、思いに触れることが一歩になるかもしれない。

(2016年8月12日朝刊掲載)

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