×

社説・コラム

社説 尖閣と中国船 問題解決へ対話加速を

 沖縄県の尖閣諸島沖で、中国船の動きが活発化している。日中間の緊張を高める一方的な示威行動である。

 緊張が高まったのは5日からだ。多くの中国漁船が尖閣の周辺海域に現れ、後を追う形で中国海警局の公船が領海への侵入を繰り返している。一時は公船の航行が過去最多の15隻に上った。日本が2012年に尖閣を国有化して以降、中国は周辺で公船による領海侵入を繰り返してきたが、これほど多くが同時に入った例はない。

 度を越えた異常事態といえよう。日本からすれば断じて容認できる話ではない。

 漁船の保護と管理を名目に、主権を主張する海域に公船を派遣するのは、中国の常とう手段とされる。南シナ海における海洋進出の経緯とも重なる。接続水域の航行や領海侵入を常態化させ、日本による尖閣諸島の実効支配に揺さぶりをかけるのが狙いとみていい。

 岸田文雄外相が程永華・駐日中国大使を呼び、「日中関係を巡る状況は著しく悪化している」と抗議したのは当然だが、その後も領海侵入は続いた。今月発表された防衛白書で中国の海洋進出について「高圧的」と批判を強めたことへの反発も背景にあるのかもしれない。

 さらにいえば南シナ海の情勢とも無関係ではない。中国が主張する主権や権益について国連海洋法条約に基づいて「根拠がない」という判決が出され、国際的な包囲網が進む。その中で、いらだちの矛先を「尖閣」に向けている節もあるからだ。岸田外相がフィリピンのドゥテルテ大統領と会談し、国際法に基づく平和的解決で一致したように関係国と連携して粘り強く対話を働きかける必要がある。

 その尖閣諸島沖では11日に中国漁船とギリシャ船籍の貨物船の衝突事故が起き、漂流していた漁船の乗組員6人を海上保安本部の巡視船が救助した。中国側からは、日本の協力と対応に謝意が示された。これをきっかけに緊張緩和が少しでも進むことを期待したい。

 そのためにも再び悪化してきた日中関係全体の改善を図るべきだ。尖閣問題についても中国の意図を正確に分析する必要があるが、安倍政権にチャンネルが乏しかったのも事実だろう。新たに自民党幹事長に就いた二階俊博氏は中国指導部に太いパイプを持っている。その動きにも注目したい。

 中国では9月初めにG20首脳会合が開かれる。安倍晋三首相と習近平国家主席との首脳会談を実現させるべきだ。中国側に自制を求めるとともに、少なくとも偶発的な衝突など不測の事態を回避するための再度の合意も不可欠ではないか。

 今の局面において歴史認識を巡る中国側の反日感情を、むやみに刺激することも好ましくない。閣僚には終戦の日に合わせた靖国神社への参拝には慎重な対応を求めたい。安倍首相や当日の動向が注目されていた稲田朋美防衛相は参拝を見送る方向となった。ならば他の大臣らも自重すべきだろう。

 経済に目を移せば、依然として中国人観光客が日本の景気を下支えしている。尖閣問題による二国間関係の悪化が双方にとって無益なのは明らかだ。相互不信の解消に取り組む姿勢を明確に示す必要がある。

(2016年8月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ