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社説・コラム

社説 戦没者の遺骨収集 一刻も早く国の責任で

 戦場に駆り出され、死んでも骨さえ拾ってもらえない。あまりにも不条理ではないか。戦後71年が過ぎても、古里に戻れない遺骨は113万人分に上る。その悲しみや憤りは戦没者本人はもとより、遺族も胸の内に抱えていよう。

 未収集の遺骨は、本土以外での戦没者240万人の半数近くになる。アジア各地やシベリア抑留地、沖縄や硫黄島などに取り残されている。軍人や仕事上の関係があった軍属のほかに、巻き込まれた一般人たちも含まれている。いかに無謀な戦争だったかを物語っていよう。このままなら遺族はいつまでも「戦後」を迎えられまい。

 遅まきながらも超党派の議員立法で今春施行されたのが、戦没者遺骨収集推進法である。戦後80年を見据え、2024年度までの9年間を集中実施期間としている。ここで何より重いのは遺骨収集を「国の責務」と明確に位置付けたことだ。

 これまで法の定めがなかったせいか、国の対応と遺族の思いには大きな温度差があった。現に終戦7年後からの国の収集事業は「本腰」とはいえず、この10年の収集実績も3万人分に満たない。これでは、戦争を引き起こした反省があるとは思えない。一人でも多く遺骨を集め、遺族の元に届ける義務がある。

 法施行を踏まえ、国もようやく腰を上げたのだろう。日本遺族会や民間団体が担ってきた収集作業は、新たに国が指定する法人がまとめる。さらに収拾の基本計画を作る厚生労働省に加え、外務、防衛省もサポートに当たる。複数のチャンネルがあれば戦地となった国から情報収集の協力が取り付けやすくなろう。活動の流れもスムーズになるかもしれない。

 撃沈などで海に沈んだ遺骨を除けば、現実的に収集できそうなのは83万人分とされる。とはいえ遺骨がどこに眠っているのかを把握するのは年々難しくなっている。戦争当時を知る戦友たちは減り、記憶も薄れつつある。戦地だった場所の様子も開発などで変わっていよう。

 国内外の公文書館などでの文献調査にも国が力を入れるというが、これについても遅きに失した感は否めない。来年度まで戦地や埋葬地などの情報を集中的に調べるという。今からでも全力を注いでもらいたい。

 さらに遺骨の身元を確認するため、DNA鑑定の体制も整備する。ただ鑑定自体は十数年前から始めているが、身元が判明したのは千人程度にとどまる。軍の認識票や印鑑などの遺品が近くで見つかった場合に限って鑑定にかけていたためだ。

 今後、対象を広げるのは当然のことだろう。鑑定結果を今後データベース化していく上において、照合させる遺族のDNAサンプルも増やすべきだ。鑑定などにかかる費用を惜しまず、全ての希望者に門戸を開くべきだ。遺族も老い、残された時間はそう長くない。無言の対面とはいえ、願いをかなえたい。

 対日感情や外交上の理由で収集が難しかった中国や北朝鮮には23万人分の遺骨があるとみられる。日本政府には相手の国の理解を得る外交交渉とともに、平和への誓いを新たにしてほしい。再び戦争によって、異国の地で命を落とすことがないように―。遺骨の113万人の無念に応えることでもあろう。

(2016年8月18日朝刊掲載)

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