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社説・コラム

『論』 ご当地通訳ガイド 広島でこそ導入したい

■論説委員・東海右佐衛門直柄

 この春から妻は時折、夜中に起きて勉強している。海外で生活していた経験を生かし、国家資格の「通訳ガイド」の資格を取りたいという。応援しようと過去問をのぞいて驚いた。難問、奇問の連続なのである。

 箱根登山鉄道で箱根町へ向かう際の乗り換え経路は? 朱雀門の「朱雀」の意味は? いったいどれだけの人が答えられるだろう。

 「広島の魅力を伝えたいだけなのに、北海道の湿原についても勉強しないと…」と困惑していた。

 なぜ、全国の地理歴史の知識が求められるのか。理由の一つは、広島に「ご当地通訳ガイド」の仕組みがないからだ。

 そもそも通訳ガイドは1949年、海外からの観光客に外国語で観光案内をするため創設された資格である。試験は観光庁所管の国際観光振興機構が行い、法律上は合格しなければ有償で案内ができないことになっている。

 ただ、創設から70年近くがたつ。訪日客の急増やニーズの多様化を踏まえ、制度見直しの動きが出ていた。その柱として政府が近年進めているのが、ご当地通訳ガイドの拡大である。

 ことしの訪日外国人は11月にも2千万人に達する勢いである。一方で通訳ガイドの数は約2万人しかいない。しかも「4分の3は都市部在住」「3分の2は英語」と二つの偏りがあり、とりわけ地方のガイド不足は深刻だ。こうした事情が背景にある。

 「通訳ガイドの地域限定版」といえる仕組みはこうだ。構造改革特区や総合特区などの形で、国家資格がなくても、語学力が高い人に対しては自治体による研修を条件に報酬を伴うガイドを認めている。これまで札幌市や京都市、鳥取・島根県など19区域で導入されている。しかし中国地方で最も外国人観光客の多い広島ではその動きがない。なぜなのだろう。

 広島県観光課は「外国語が話せるボランティアやガイドが活発に活動している」と、ご当地通訳ガイド導入には後ろ向きの姿勢だ。広島市観光政策部も「広島市から廿日市市の宮島を訪れる観光客が多く、市単独ではやりにくい。県がやってくれれば…」と、いまひとつやる気が見えない。

 広島は海外から観光地としての人気が高く、「何もしなくても客はどんどん来る」という意識もあるのかもしれない。ただ、今後の訪日客の増加や、満足度のさらなる向上を考えると、広島の魅力と奥深さを丁寧に伝えられるご当地通訳ガイドの育成は観光戦略の鍵となるのではないか。

 というのも旅行客のニーズが多様化しているからだ。訪日客は以前、原爆ドームなどをバスなどで巡るのが定番であった。しかし最近、外国人が訪れることのなかった所へ足を延ばす人が多い。広島では宮島の弥山原始林や、北広島町の八幡湿原などの人気が高まっているという。また神楽など伝統芸能への注目度も高い。

 通り一遍の観光地情報だけでなく、ネイチャーガイドなど特定の分野をより専門的に解説するニーズが高まっているといえる。地元に根差した情報を外国語で伝えるガイドが増えれば、観光客の満足度は高まるのではないか。

 さらにいえば被爆地の平和発信力を強められる可能性も高い。

 現在、平和記念公園一帯では外国語のボランティアが活躍している。その熱心な仕事ぶりには敬服する。ただ熟練度にばらつきがある印象も拭えない。

 核問題に関心のある海外からの来訪者に原爆投下の経緯や被爆地の訴えを丁寧に解説し、「核兵器を二度と使わせてはならない」というメッセージを伝えるには、専門知識と表現力が要る。ボランティアには荷が重すぎる、との声があるのは確かだろう。

 県内には企業などによる「広島おもてなし推進コンソーシアム」がある。こうした団体と自治体がタッグを組み、ご当地通訳ガイドの育成と研修を図るのも一案ではないか。外国人客に、通訳ガイドやご当地通訳ガイドをもっと手軽に紹介できるネットワークを構築できればヒロシマの訴求力向上にもつながる。

(2016年8月18日朝刊掲載)

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