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社説・コラム

社説 シールズ解散 若者の問い どう生かす

 安全保障関連法や憲法改正に反対する学生たちで昨年5月に結成され、活動を続けてきた若者グループ「SEALDs(シールズ)」が今月15日で解散した。国会前での斬新なスタイルによるアピール活動などが耳目を集めてきた。

 解散翌日の記者会見で、メンバーの一人はこう語っていた。政治参加が当たり前の文化をつくりたかった、と。今こそ政治に関心を持って声を上げる真の主権者になるべきだという意味だろう。無名の若者たちが投じた一石はやはり重い。  一つの社会現象となったのは柔軟な感性を生かした行動のスタイルゆえではないか。

 国会前では打楽器のリズムに乗せて、「民主主義って何だ」「勝手に決めるな」と声をからした。さらに会員制交流サイト(SNS)の情報発信で緩やかに連帯する手法も斬新だった。昔ながらのデモ行進などとは違う参加しやすさから幅広い世代が連なり、その輪には中高年や幼子を連れた女性らの姿が見られたのも印象的だった。

 若い世代の選挙離れが指摘されて久しい。学生運動が活発だった昔と比べものにならないほど政治に無頓着だ。そんな層の関心を集め、一定に行動を促したことは大きな成果といえるだろう。国会前の動きに呼応し、東北や関西、沖縄などでも同じようなグループが生まれた。

 ある意味では若者たちが閉塞(へいそく)した現在の政治状況に潜在的な危機感を募らせていて、安保法制の議論をきっかけに噴き出したのかもしれない。

 数を頼みに日本の行く末を左右する重要政策を強引に前に進める巨大与党と、乱立して歯止めをかけられない野党―。政党政治の機能不全を見かねて、ここぞと決めたテーマに絞って直接、行動に移したとも総括できよう。香港、台湾など民主化が問われるアジアや欧米における若い世代のムーブメントの流れも思わせる。

 折しも18歳選挙権の導入とも活動が重なった。その中でシールズは政治参画への意識を問い掛け、1票の権利を持った高校生にも響いたのではないか。現に東京では街頭の行動に制服姿で加わる姿も報じられた。主権者教育の在り方を幅広く問うたともいえる。

 むろん「限界」があったのは確かであり、安保法制でも政府与党の方針を変えさせることはできなかった。先月の参院選では1人区の野党統一候補の動きをつなぐ役割こそ果たしたが、結果は自公の圧勝だった。野党のふがいなさ、力不足が際だったものの、だからといって若者たちの発信が無意味だったとは思わない。その行動力に学ぶべきものが少なくないはずだ。

 「若者が政治的にイエス、ノーを言うことがこんなにも大変なのかと感じた」という解散の弁も聞かれた。考えを異にする側からの強い批判のほか、露骨な妨害もあったようだ。わが国の政治土壌の貧しさを思う。

 未来を担う世代を巻き込んでこその政治である。憲法改正の是非をはじめ、国民的議論が欠かせない問題がこれから山積している。賛否どちらであっても一人一人が自分の考えを持ち、その民意を政治の側ができる限りくみ取ることが求められる。若者たちの1年余りの問いかけを政治の現場に生かしたい。

(2016年8月19日朝刊掲載)

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