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社説・コラム

『記者縦横』 被爆地訪問は形だけか

■平和メディアセンター・金崎由美

 原爆が投下されてから71年となった6日の平和記念式典(広島市中区)で、松井一実市長と湯崎英彦知事はそろって各国の為政者に被爆地訪問を呼び掛けた。原爆が個人の命や人生をいかに奪い去ったかを知ってもらうことが、核兵器廃絶への行動につながる。その信念は、被爆者や市民と共有する願いでもある。

 式典後、各国代表の大使や政府関係者に声を掛けて感想を聞き、被爆地訪問の確かな意義を実感した。「式典に出席するだけではなく、原爆資料館を訪れ、被爆者と会ってこそ真の理解につながると思った」。そう率直に語った大使もいた。8月6日に広島に来ることの意味を、それぞれが考えているのだろう。

 同時に、式典取材のたび、やるせなさも募る。世界の誰よりも頻繁に被爆地を訪れ、核兵器廃絶を呼び掛ける為政者の言動が、実際の行動と一致しないからだ。日本の首相である。

 オバマ米政権が核兵器の「先制不使用」宣言を模索しているのに対し、安倍晋三首相は自ら米側に反対を伝えたという。核兵器を敵より先には使わないと制限することは、米核政策の一大転換と核削減への道を開く具体策となる。米国の核抑止力が弱まる、と懸念する被爆国が「逆バネ」として働いている実態に、「またか」と言うしかない。

 広島と長崎は、形だけの被爆地訪問を世界の為政者に求めているのではない。核兵器廃絶の実現に熱心だという「アリバイ」づくりの場にされては困る。

(2016年8月19日朝刊掲載)

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