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社説・コラム

社説 日中韓外相会談 東アジアの安定 第一に

 きのう北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を日本の防空識別圏に着弾させた。断じて容認できない。日中韓外相会談が東京で開かれる当日である。けん制する狙いもあっただろうが、動じてはなるまい。

 東アジアの平和と安定を脅かす北朝鮮の核・ミサイル問題を日中韓は最優先課題とし、連携を強める契機とすべきだ。

 日本での外相会談開催は2011年3月以来、5年5カ月ぶりである。戦後70年の昨夏までは、中韓が歴史問題で安倍政権をけん制する構図だった。日中韓の関係が改善に向かっているとみることができよう。

 岸田文雄外相は会談後の共同記者発表で「日中韓にはさまざまな懸案はあるが、政治的英知を持って乗り越え、協力を進めることが重要だ」と述べた。小異を捨てて大同につくことは、北朝鮮の「暴発」を食い止める最大の備えといっていい。

 SLBMの発射は、国連安全保障理事会の制裁決議に明白に違反している。日中韓は北朝鮮に挑発的行為の自制を求めるとともに、決議の順守を各国に求めていくことで一致した。

 北朝鮮の核開発能力を侮ることはできまい。最近になって使用済み核燃料の再処理を再開し、核兵器の原料となるプルトニウムを新たに生産したことを公式に認めている。核兵器増産態勢が整ったことを意味する。併せて濃縮ウランの核兵器への利用も明言したのである。

 北朝鮮からすれば、取り巻く外交環境は有利に働いてきたといえよう。南シナ海問題や「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備を巡る米中の確執が背景にある。THAAD配備はレーダーで内陸部を監視する目的だと中国は反発し、中韓関係は急速に悪化した。

 しかし、きのうの中韓外相会談では、中国側は協議を通じて解決策を見いだすべきだと態度を軟化させたと見て取れる。韓国側は、THAADは北朝鮮のミサイルから韓国を防衛する目的だと主張したもようだ。

 中韓関係の悪化は北朝鮮を利するほかない。THAADの問題はひとまず棚上げし、北朝鮮の核・ミサイル問題に一致して対処することを求めたい。

 個別の会談でも、一定の成果があったといえよう。

 日韓外相会談では、従軍慰安婦問題を巡る昨年末の日韓合意に基づき、元慰安婦を支援する韓国の財団に10億円を拠出する旨を岸田氏から伝えた。今後はソウルの日本大使館前に設置された少女像の問題が焦点となる。韓国の世論も見極めながら慎重に事を進めるべきだ。

 日中外相会談では岸田氏が沖縄県・尖閣諸島周辺への中国公船の領海侵入に抗議し、事態の沈静化を求めた。王毅外相が領有権を主張して平行線をたどったものの、東シナ海での偶発的衝突を回避する「海上連絡メカニズム」の早期運用開始に言及したことは重要である。

 さらに9月に中国・杭州で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合に合わせた日中首脳会談について調整を進めることで一致したことも、関係改善に向けた一歩といえるだろう。

 日中韓の関係改善は、東アジアの平和と安定に欠かせないものであり、それぞれの首脳の歴史的責務でもあるはずだ。この機会を逃してはなるまい。

(2016年8月25日朝刊掲載)

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