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連載・特集

ウエルカム訪日観光客 中国地方の人気スポット 大久野島(竹原市) 

ウサギ700匹 動画で拡散

 「こんなにたくさんいるなんて、他の場所では考えられない」。英国人のバレリー・ジョーンズさん(60)は、木陰で休むウサギにカメラを向ける。「ウサギの島」として人気が急上昇している竹原市忠海町の大久野島。ジョーンズさんはインターネットの動画サイトで知り、日本観光のルートに組み入れた。

 島には700匹を超えるウサギが生息する。約45年前、島外の小学校で飼育されていたウサギが持ち込まれ、自然繁殖したという。

玄関口の港混雑

 大久野島のウサギの動画は2013年ごろ紹介され、米国や韓国、台湾などで広まった。市によると、13年に島を訪れた外国人客は378人。それが14年は5564人、15年は1万7215人まで急増した。

 ウサギの島の人気は国内でも高まり、15年の総観光客数は前年の1・3倍の25万4千人に。玄関口の忠海港の混雑が激しくなった。

 そこで、山陽観光(竹原市)はことし、市中心部に近い竹原港と大久野島を結ぶ高速船を4月29日~5月5日、7月16~18日、8月11~14日の計14日間運航。計2285人が利用したが、大半は日本人だったという。同社は「外国人客への周知が十分ではなかった」と省みる。

乏しい波及効果

 古い民家が残る同市本町の町並み保存地区。15年は市内で最多の54万人が観光に訪れたが、そのうち外国人は261人にとどまる。市が15年から今年にかけて、大久野島を訪れた外国人客にアンケートした結果、7割は町並み保存地区を知らなかった。

 大阪から大久野島に移動してきたジョーンズさんも、島を離れるとすぐに広島市に向かった。「竹原という地名は聞いたことがあるが、何があるのかは知らない」と話した。竹原市産業振興課は「ウサギ以外の情報は、ネット上で紹介されていないため、島だけが観光の計画に入れられる事例が多い」とみる。

 広島県と市は7月中旬、街角で困っている外国人客の道案内をするボランティア団体「おせっかいジャパン」(東京)のメンバー3人を招き、忠海港に近いJR忠海駅周辺で2日間にわたって活動した。

 団体の鬼内秀起代表(55)は「町並み保存地区について教えると、多くの人が行ってみたいとの反応だった。簡潔で分かりやすい看板を忠海駅に置くなどしてアピールするべきだ」と提案した。(山田祐)

大久野島
 竹原市の忠海港沖3キロに位置する。フェリーで約10分。周囲4.3キロ、面積0.7平方キロ。民家はなく、唯一の宿泊施設である休暇村大久野島の職員が島内の寮に住んでいる。かつては、陸軍の毒ガス工場があり、1929年からイペリットガスやくしゃみ性ガスなどを製造した。軍事機密のため戦時中は地図から消されていた。現在は、毒ガス資料館と、製造に従事させられて後遺症に苦しんだ人々の慰霊碑がある。

(2016年8月26日朝刊掲載)

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