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連載・特集

「この世界の片隅に」に寄せて <2> アニメ映画監督 片渕須直さん

暮らしも戦争もリアルに

 「第2次世界大戦中の呉や広島の町並みや、戦艦大和が呉に入港してきたときの天候などを忠実に再現した。リアリティーを持たせることで、暮らしも戦争も確かに現実としてあったことだと伝えるためだ」

 原作漫画とアニメ映画は、原爆や呉空襲で大切な人を亡くした後も主人公すずの日々の暮らしは続く。「その日常を再現するため、現地を回り、資料を読み込んだ」

 すずの声優は能年玲奈から芸名を変えた俳優のんさんが務める。通常のアニメ映画は絵が完成した後、声を録音するが、今作は絵の制作途中でとった。

 「例えば8月6日の原子爆弾投下の後、すずが広島の実家に戻りたいと言って髪を切る場面がある。原作漫画は険しい表情で描かれているが、のんさんのせりふには心細さや強さも入り交じっていた。声に込められたさまざまな感情を含め、アニメ映画の絵をつくっている」

 「日常を描く」。自らと相通じる原作者こうの史代さんの作風に引かれ、映画化を決めた。「8・6以降も人々の営みは続き、それがいまにつながっている。それを画面から感じ取ってほしい」(小笠原芳)

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 特別展「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」は11月3日まで、呉市幸町の市立美術館で開催中。

かたぶち・すなお
 1960年大阪府枚方市生まれ。日本大芸術学部卒。在学時から宮崎駿監督の作品に脚本家として参加。代表作は「マイマイ新子と千年の魔法」(2009年)。東京都在住。

(2016年8月26日朝刊掲載)

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