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中電、請求の全額放棄 上関原発工事 損賠訴訟 反対住民と和解

 山口県上関町で計画する原発建設に伴う埋め立ての準備工事を妨害されたとして、中国電力が計画に反対する同町祝島の住民たち4人に計約3900万円の損害賠償を求めた山口地裁(桑原直子裁判長)の訴訟は30日、和解が成立した。中電側は損害賠償の全額の請求を放棄した。住民側は「損害賠償の請求の放棄は極めて異例だ。勝利的な和解だ」としている。

 条件は7項目。損害賠償の放棄▽埋め立て工事が再開された場合、被告4人は陸地の工事区域に立ち入ったり、海上での作業船の航行を妨害したりせず、第三者にも同様の行為を促さない▽違反した場合は1日100万円を中電に支払う―など。住民側の一切の表現行動が中電などから制約されないことも確認した。

 和解に至った理由について、原告、被告側双方の弁護士は、地裁から和解案を示された経緯を挙げた。原告側は「今後妨害しないとの内容を含めて総合的に検討した」という。

 和解を受け、中電上関原発準備事務所は「当時のような危険な状況が繰り返されないと考える」とした。被告の一人で島民の清水敏保さん(61)は「上関原発が白紙撤回されるまで、反対運動を続ける」と話した。

 中電は2009年12月、埋め立て予定海域周辺でシーカヤックなどの阻止行動により損害が生じたとして、清水さんたち4人に賠償を求める訴えを山口地裁岩国支部に起こした。当初の請求額は約4800万円。原発計画の反対派に対する初の損賠請求訴訟で、昨年から和解に向けた協議をしてきた。(折口慎一郎、井上龍太郎)

「異例」の条件で歩み寄り

 中国電力が上関原発建設計画の反対派を相手に初めて損害賠償請求をした訴訟は6年8カ月に及び、「極めて異例」(被告弁護団)という請求の全額放棄で和解が成立した。山口地裁は昨夏にかけての被告4人の本人尋問を経て、和解案を提示。双方の落としどころを詰め、決着した。

 総額約3900万円の請求を放棄した中電。和解に応じた理由として、海上交通の法規に反する被告側の妨害行為を禁じた条項を挙げる。「今後、工事への妨害がないことが担保された」。福島第1原発事故後、中断の続く埋め立て工事の再開後を見据える。

 一方の被告側。長引く訴訟が住民たちの負担にもなっていた。「解放されて、運動に力を注げる」と被告代理人の小沢秀造弁護士。「表現行動を制約しない」という条項については、建設反対のさまざまな活動に対し「中電側が尊重する」との意味を持つとの見解を示した。

 中電の提訴から約5年半後の昨年6、7月、被告4人の本人尋問があった。被告側によると、地裁は同11月、「損害賠償の請求を放棄する」内容を含む和解案を提示。この案を軸に、具体的な条件の調整が進んでいった。(井上龍太郎)

(2016年8月31日朝刊掲載)

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