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連載・特集

「この世界の片隅に」に寄せて 大和ミュージアムボランティアスタッフ 藤井和彦さん

呉空襲 身近な死想像して

 原作漫画でも描かれている1945年の呉空襲を当時13歳で体験した。呉市立美術館で開催中の特別展で先月、呉市の灰ケ峰の麓から目撃した空襲の光景を来館者約30人に証言した。

 飛び散る焼夷(しょうい)弾の炎、真っ赤に燃え上がる街、火災で巻き上げられて空から降ってくるトタン板…。「私が見たのは特別なことではない。戦争になれば誰もがいや応なしに体験する。二度と見たくないという思いで話した」

 翌日以降、犠牲者を焼く煙があちこちで上るのを見た。「朝一緒だった父や兄と夕食を食べられるとは限らない。誰もが死と隣り合わせにあった」。原作も淡々としかし、ありのままに描いている。

 「市民を監視する憲兵や隣組にも不条理を感じた。戦争は遠い戦場で起きるのではなく、身近にも恐ろしい出来事が起きるのだと知ってほしい」

 証言に耳を傾けた来館者の中には若い世代もいた。「呉の今の街並みから空襲の様子をうかがい知るのは難しいが、映画を見て訪れる人には、ここで何が起きたか想像してほしい」と願う。(見田崇志)

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 特別展「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」は11月3日まで、呉市幸町の市立美術館で開催中。

ふじい・かずひこ
 1932年、東京都生まれ。幼少期に呉に移る。52年に海上保安庁。海上保安学校事務部長などを務め、93年退職。2005年の大和ミュージアム開館時からボランティアスタッフを務める。

(2016年8月31日朝刊掲載)

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