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『書評』 ヒロシマを伝える 詩画人・四國五郎と原爆の表現者たち 武蔵大教授 永田さんが新著 絵や言葉の力を信じて

占領下 被爆伝えた執念 四国五郎・峠三吉・丸木夫妻…

 連合国軍総司令部(GHQ)のプレスコードで被爆者の苦悩が公にされず、国の援護も頼る組織もほとんどなかった昭和20年代(1945~54年)を指して、被爆者たちは「空白の10年」と呼ぶ。だが「『空白』などなかったのではないか」。

 元NHKプロデューサーで武蔵大教授の永田浩三さん(61)=東京都=は、新著「ヒロシマを伝える 詩画人・四國五郎と原爆の表現者たち」(写真上・WAVE出版)で、そう投げ掛けている。

 峠三吉「原爆詩集」の表紙絵など反戦反核の画業で知られる画家・四国五郎(1924~2014年)を軸に、絵や言葉の力を信じて被爆の実情を伝え、平和を訴えた同時代の群像をまとめた。

 冒頭紹介するのは、芸術性よりもメッセージの伝達を大切にした四国の生き方を象徴するような「市民が描いた原爆の絵」を巡るドラマだ。被爆者が持ち込んだ1枚の絵が契機となりNHK広島放送局が1974年、市民に呼び掛けた。四国は請われて協力し、「絵での表現が難しい場合には文字で補って」と市井の人に促した。75年までに2225枚が集まった。

 本書では以下、「市民画家」を貫いた四国の原点であるシベリア抑留体験や弟の被爆死にも触れながら、言論統制の厳しかった占領下にも、記録し、伝えることへ執念を燃やした人々を追う。四国と共に詩で抵抗した峠三吉や、「原爆の図」を共同制作して全国巡回させた丸木位里・俊をはじめ、文化を通じてヒロシマを伝える有名無名の活動をひもといている。

 永田さんは、彼らが残した著作物などを当たるうち「空白と呼ばれた10年にも、先人たちは必死で闘っていた」と痛感したという。そんな群像を取材しながら「ヒロシマの無念の集積が響き合い、人と人がつながって、先人の遺志が後世に伝わっていくのを感じた。それを受け取った私もまた誰かに伝える役目を負っている」と話す。四六判、256ページ。2160円。(森田裕美)

(2016年9月1日朝刊掲載)

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