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社説・コラム

社説 G20首脳宣言 「同床異夢」どう脱する

 中国の杭州で開かれていた20カ国・地域(G20)首脳会合が世界経済への「処方箋」としての首脳宣言を採択した。

 英国の欧州連合(EU)離脱や新興国経済の減速―。下振れリスクの認識を共有し、各国が成長加速のため金融、財政、構造改革の政策を総動員する、としたことがポイントだろう。貿易と投資において、世界に台頭しつつある保護主義への反対を鮮明にしたのも目を引く。

 議長国中国は南シナ海問題などで厳しい視線を浴びている。その中でも習近平国家主席が曲がりなりにも国際協調を演出して面目を保った格好になる。

 しかし世界経済の安定と健全な成長を図るにしては、インパクト不足が否めない。

 不透明さを増す中東情勢や原油安、為替相場の動向などを巡っても、G20の利害は複雑に交錯する。並行して繰り広げられた首脳外交を含め、さまざまな思惑がぶつかり合ったのは間違いない。首脳宣言がやや総花的に思えるのもその反映だろう。

 待ったなしの協調に迫られたリーマン・ショックと比べ、将来リスクを見通す段階である。首脳たちの議論にも前ほどの緊迫感はなく、専ら中国国内の体制固めに使われた節もある。

 今回の成果をどう解釈し、どう実行に移すか。それも各国・地域のさじ加減次第となろう。

 例えば首脳宣言で数少ない具体的な指摘となった鉄鋼過剰生産である。中国の成長鈍化で深刻な生産過剰となり、政府の後押しによる他国への「安売り」が波紋を広げる。今回の会合では鉄鋼生産国による「国際フォーラム」設置が決まった。

 ただ肝心の中国の本音は必ずしも見通せない。構造改革推進とともに保護主義反対で確かに足並みをそろえたが、鉄鋼を含む他国の輸入規制をけん制する思惑も読み取れよう。むしろ安価な自国製品の輸出拡大の口実にしていくのではないか。

 その点でいえば日米も似たり寄ったりかもしれない。保護主義反対の旗印を環太平洋連携協定(TPP)推進に生かすことになろう。大統領選を控えて、TPP反対論の強まりに焦るオバマ政権だけではない。安倍晋三首相が臨時国会の関連議案審議で、大義名分として持ち出すことは想像に難くない。

 G20の現状は「同床異夢」に近い。どうとでも取れる宣言なら協調の実効性を欠くどころかばらばらに動く恐れもあろう。「政策総動員」という首脳宣言の言葉にしても、日本のアベノミクスも含めて自国政策の正当化に便利に使われかねない。

 経済とさまざまな外交課題が本質的には切り離せないことも肝に銘じたい。今回は地球温暖化防止のパリ協定批准を米中そろって打ち出すサプライズもあったが、経済分野以外はやはり埋没感があった。焦点の南シナ海問題が中国の工作で議題化を封じられたのも残念だ。さらにG20による「包囲網」へのけん制か、北朝鮮が弾道ミサイルを日本海に発射する許し難い事態に最後は水を差された。

 政治体制も経済状況も異なる先進国と新興国によるG20の枠組みには、もともと限界論があった。もはや首脳外交の舞台を設けるだけでよしとする段階は過ぎていよう。激動の世界情勢の中で、G20首脳が集う意味をあらためて見詰め直したい。

(2016年9月6日朝刊掲載)

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