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北朝鮮5回目核実験 憤るヒロシマ 「なぜ思いを裏切る」 平和公園で座り込み

 「なぜ被爆地の思いを踏みにじり続けるのか」。北朝鮮が5回目の核実験をした9日、中国地方の被爆者や市民から憤りの声が上がった。実戦的な色合いを帯びる近隣国の実験に、不安な思いも漏れた。

 「ばかげたことだ。はらわたが煮えくり返っている」。広島市中区の広島県被団協の事務所。坪井直理事長(91)は記者団を前に強い口調で非難した。5月にオバマ米大統領の広島訪問が実現し、「核兵器なき世界」への機運が高まるさなかでの暴挙。「自分勝手な論理で進んでいる。目覚めよ、と言いたい」

 夕方には平和記念公園(中区)の原爆慰霊碑前で同被団協や県原水禁など12団体でつくる「核兵器廃絶広島平和連絡会議」の呼び掛けに応じた85人が、抗議の座り込み。坪井理事長も最前列で横断幕を持った。

 街の声にも怒りがにじむ。原爆資料館(中区)を訪れていた愛知県西尾市の会社員山田真二さん(57)は「廃絶の議論がある中で恐ろしい兵器を開発するなんて理解できない」。一方、怖さも増す。南区の高校非常勤講師林隆一郎さん(67)は「北朝鮮はミサイル発射を続け、中国は海洋進出している。東アジアの国際秩序は混沌(こんとん)としており、危うい」と日本政府に防衛力の強化を望む。

 最新鋭戦闘機の配備計画がある米海兵隊岩国基地を抱える岩国市。中本清司郎さん(68)は「基地が北朝鮮の標的になる可能性があるのでは。市民の安全を確保できるよう、国は情報収集に尽力を」と強く求めた。

 北朝鮮を協調に導くよう、国際社会の行動を促す声は強い。広島県朝鮮人被爆者協議会の金鎮湖(キム・ジノ)理事長(70)は「米国や韓国、日本などは話し合いの糸口を模索し、核実験をしなくなるような情勢をつくって」。福山市原爆被害者友の会の藤井悟会長(69)も「各国は核兵器廃絶という一点で足並みをそろえ、連帯すべきだ」と言う。

 「日本政府は核の抑止力に頼らぬよう世界に訴える責務がある」。島根県原爆被爆者協議会の原美男会長(89)=松江市=は説く。もう一つの広島県被団協の佐久間邦彦理事長(71)は「北東アジアの非核化へ、被爆国が具体的な方向性を示せていない」と指摘。同日、県原水協と連名で発表した声明では「核兵器禁止条約」に後ろ向きな日本政府に対し、条約の交渉開始を主導するよう迫った。

広島市長や知事 「暴挙」と抗議文

 広島市の松井一実市長と広島県の湯崎英彦知事は9日、核実験を強行した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に対し、それぞれ抗議文を郵送した。松井市長は「被爆者の平和への願いを踏みにじる許しがたい暴挙」と非難。核兵器をすぐに放棄し国際社会との対話、協調を進めるよう迫っている。

 松井市長は市役所で記者団の取材に応じ、オバマ米大統領が5月に広島を訪れた際に「核兵器なき世界を追求する勇気を持たねばならない」と訴えたのを念頭に、「理想に向けて保有国がどう対応するか重要な局面だ」と指摘した。松井市長が会長を務める平和首長会議や、永田雅紀市議会議長も抗議文を送った。

 湯崎知事は宇田伸県議会議長と連名で抗議。「他の保有国や保有願望国の核開発を加速させ、世界の平和と安定の構築を損ねる」と、強い懸念を表明した。(渡辺裕明)

(2016年9月12日朝刊掲載)

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