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社説・コラム

社説 北朝鮮核実験 挑発には動じず 毅然と

 きのう北朝鮮は5回目の核実験を強行した。声明によれば核弾頭を新たに開発し、威力を調べる目的だとした上で、米国をはじめとする包囲網への対抗措置だと開き直った。

 自らの過ちをすり替えるプロパガンダにすぎない。1月の前回核実験を非難する国連安全保障理事会の決議と各国の制裁を完全に無視した暴挙であり、断じて許されない。オバマ米大統領の広島訪問などで核軍縮・廃絶の機運が高まる中、被爆地としても怒りを覚える。

 このタイミングには二つの見方がある。まず自国の建国記念日に合わせて、国威発揚と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の求心力向上を図ったとの説だ。もう一つは中国・杭州での20カ国・地域(G20)首脳会合や、東アジアサミットに日米韓をはじめ関係国が集まる時期をあえて狙ったとも考えられよう。

 どちらにしても北朝鮮指導部が体制維持の「切り札」として核兵器に執着する姿勢がより鮮明になったといえる。

 ただむやみに慌てるのではなく、北朝鮮の核の脅威を冷静に分析しなければならない。

 実験は過去最大規模とみられる。5月の党大会で発した事実上の「核保有国宣言」を見せつける狙いだろう。過去おおむね3年ごとだった実験周期は確実に短くなっており、核燃料再処理を再び進めていることも先ごろ公式に認めた。核保有を既成事実化することで、米国など関係国と渡り合おうとする野心が垣間見える。来年発足する次期米政権との交渉をもくろみ、揺さぶりをかける意図もあろう。

 日本にとってはミサイル技術の進展と合わせて脅威は一層高まったといえる。この2カ月、北朝鮮は弾道ミサイルを相次いで発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)に狙い通り落下させた。距離、精度とも確実に伸びている。核兵器をミサイルに搭載する実戦配備を念頭に置いている恐れもあろう。

 国際社会は毅然(きぜん)として対処し、安易な妥協もすべきではない。裏を返せば北朝鮮指導部の焦りとも見て取れるからだ。

 経済発展と核開発を同時に進めようとする北朝鮮の「並進政策」の片方を払おうとするのが経済制裁である。安保理の緊急会合が日本時間のきょうにも開かれ、再度の非難声明に加えて制裁強化も入れることになろう。だが、それだけでは暴走にストップをかける効果は薄いと言わざるを得ない。

 現に北朝鮮は一時に比べて食料事情は窮迫しておらず、資源輸出で外貨を得るすべも確立しつつある。「後ろ盾」とされる中国が貿易を再開しつつあり、実効性は乏しいのが実情だ。

 今後とも国際社会が歩調をどうそろえるかが問われる。粘り強い対話を第一に、あらゆる手段のアプローチを考えたい。

 今月、国連総会が開幕する。核兵器禁止条約の交渉開始に向けた議論とともに、オバマ氏が先制不使用を含めた核政策見直しを表明するかどうかも注目されていた。北朝鮮の暴挙が流れに水を差した感もある。

 しかし、対抗するために核抑止力がやはり必要だという主張で根本的な解決につながるだろうか。核には核、という発想に頼るだけでは中国も含めた東アジアの核状況を巡る負の連鎖は断ち切れない。

(2016年9月10日朝刊掲載)

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