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社説・コラム

天風録 「暴走する3代目」

 祖父も父親も名の通った国語学者で、字引の編者としても知られる。金田一京助、春彦に続く3代目の秀穂さんは、ついて回る名字が煩わしかったのだろう。反発から大学では心理学の世界を選ぶ▲遠回りした揚げ句、親たちと同じ道に進む。父の没後10年たって、やっと国語一家3代の歴史に向き合って1冊の新書をものした。著者紹介のひと言を覚えている。「父を超えるというのは、永遠のテーマですよね」▲同じ3代目でも、北朝鮮の「金」さんは何とも度し難い。あろうことか新年早々に続き、きのう通算5回目の核実験に及んだ。しかも「核弾頭の爆発実験に成功」としている。言語道断の極みである▲一方的に緊張を高めて気を引く「瀬戸際戦術」とも片付けてはいられまい。金正恩(キム・ジョンウン)氏が亡き父から政権を世襲して、12月で丸5年。独り立ちしたと内外にひけらかすのに核をもてあそぶとは、とんだ「核」家族だろう▲戦後も71年。肌身で戦争を知る世代から数えれば、秀穂さんも言う通り、今は「3代目」の時代ともいえる。呼び方こそ違うが、広島では非核や反戦の最前線に立つ被爆3世もいる。海の向こうで暴走する3代目に屈するわけにはいかない。

(2016年9月10日朝刊掲載)

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