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社説・コラム

『潮流』 ラクダのごとく

■周南支局長・山中和久

 周南地域を拠点に、全国でも珍しい女性だけの同人で編集する季刊の詩誌「らくだ」が、この夏終刊した。1976年の創刊以来、40年間で155号の誌齢を重ねた。事務局の中村光子さんを訪ねると、意外にも「寂しいよりほっとした、肩の荷を下ろせたという気持ち」と返ってきた。

 終刊号に、歴史作家で詩人の冨成博さんが創刊に寄せた作品「讃」が再掲されている。

 <子らくだの命はまだ小さい/『駱駝(らくだ)』もはじめは/小さかったではないか/小さい命が歩きはじめる/母親のあしあとをのばしてゆく>

 駱駝とは光市の詩人、礒永秀雄が主宰した詩誌。彼の詩作の原点は南方戦線での体験と、復員して最初に見た室積の海とされる。海を「いのちを産みつづける永遠の母の胎(はら)」と表現し、命を奪う戦争を許さなかった。76年、55歳で亡くなり、駱駝も廃刊となった。

 中村さんたち女性同人5人が礒永の遺志を受け継ぐかたちで創刊したのが、ひらがなのらくだ。「ヒューマニズムと合理精神」「絶望の克服」を会則に掲げ、女性の視点で命を詩に映し出した。一度も欠かさぬ合評会場は専ら、徳山駅近くの中村さん宅。手心を加えることなく批評し合った。時に悔しくて泣きたいこともあったけれど、詩の好きな連中だから次の会にもいそいそと参加したという。

 創刊メンバーの一人は既に他界し、71歳で最年少の中村さん以外の3人は療養中。客員として支えた駱駝同人の男性も多くが鬼籍に入り「このあたりが潮時」と終刊を決めた。「でも終わりは旅立ちの時」と中村さん。若い仲間と共に、うたい続ける決意を示す。

 礒永がのこした言葉がある。「歩いていなければ駱駝ではない」「歩きながら考えると、現象側から詩を与えてくれる」。当方も詩を記事に置き換えてみる。

(2016年9月13日朝刊掲載)

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