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社説・コラム

天風録 「帰ってきた星条旗」

 白くほこり舞うがれきを背景に、3人の消防士が星条旗を掲げる。「9・11」現場の写真を基にした米国の切手の図柄である。現地に住む友人からのエアメールに貼ってあったことを思い出す。一つの旗の下に愛国心を奮い立たせるこの国らしい▲モデルとなった実物の星条旗が先日、見つかった。12年ほど前、行方知れずになっていたが、付いていたほこりから本物と分かった。惨事から立ち上がった「米国の象徴」として現地では大きく報じられているという▲だが、星条旗がその後もたらしたものは何だったか。テロの衝撃から、市民は「報復を」と叫んだ。アフガニスタンに戦争を仕掛け、イラクに多くの兵員を送った。今なお中東は混沌(こんとん)としテロの恐怖は広がる。外から見たその旗は、決して正義の証しではあるまい▲米中枢同時テロから15年になる。私たちはこの間、何を学んだのだろう。「敵か味方か」区別して、正義を振りかざすことの危うさか。それとも、憎しみの連鎖を引き出す偏見の怖さか▲かの星条旗は再びグラウンド・ゼロに戻り、展示された。願わくば、憎悪を断ち切る勇気の証しとして掲げてほしい。それこそがテロとの戦いだと信じる。

(2016年9月13日朝刊掲載)

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