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社説・コラム

社説 安保法1年 なし崩しの運用許せぬ

 集団的自衛権の行使を可能にし、日本の防衛・安全保障政策を大きく転換させた安全保障関連法が成立して、きょうで1年となる。

 自衛隊は、安保関連法で新たに付与される任務の訓練を始めた。いよいよ本格的な運用段階に入ろうとしている。

 その前に検証しておくべき課題は多い。1年前、多くの反対を押し切り強行採決で成立した法律だ。その際、安倍晋三首相は「今後も国民に説明する努力を続ける」と述べた。だが、この1年間、国民の理解を深めようとする姿勢はほとんど見せずじまいだった。

 多くの疑問点を残し、いまだに国論は割れたままである。なし崩しに運用段階に移ることを認めるわけにはいかない。

 歴代政権が禁じてきた集団的自衛権の行使を、憲法9条の解釈変更という手法で解禁した安保関連法に対し、多くの専門家が違憲と指摘する。その議論はいまも決着していない。

 違憲性に加えて、拡大する新たな任務を巡る自衛隊のリスクなど、論点は多岐にわたるにもかかわらず、これまでまともに議論されなかった。26日に召集される臨時国会を出発点にすべきだ。国際情勢と安保関連法の妥当性を整理・分析した上で、しっかり議論してもらいたい。

 自衛隊の新任務では、まず国連平和維持活動(PKO)が焦点になろう。政府はアフリカの南スーダンに派遣される陸上自衛隊に「駆け付け警護」の任務を付与する方針でいる。離れた場所で武装集団に襲われた他国軍の兵士や国連職員たちを、自衛隊が助けに行く任務で、武器使用の基準が緩和され、警告射撃が認められた。

 ただ、南スーダンは7月に大統領派と副大統領派の戦闘が再燃し、事実上の内戦状態にある。日本政府は「PKO参加5原則」の柱である停戦合意は保たれているというが、「新任務ありき」で前のめりになっている感が否めない。

 紛争地域で銃声を響かせれば、隊員が攻撃を受ける危険性も高まる。やむを得ず、相手に危害を加える射撃で応じなければならない事態も否定できない。自衛隊のリスクと正面から向き合い、新任務の妥当性を検討しなければならない。

 安保関連法の必要性についても、納得できる説明が尽くされたとは言い難い。

 確かに日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。とりわけ核実験やミサイル発射を繰り返す北朝鮮の動向は看過できない。先月公表された防衛白書は「核兵器の小型化・弾頭化の実現」の可能性に言及した。中国も沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で公船の航行を繰り返しており、強引な海洋進出の懸念が拭いきれない。

 首相は安保関連法の制定で「日米同盟が強化され、日本を守る抑止力が高まった」とするが、抑止するどころか、逆に緊張は増しつつあるのが現実ではないだろうか。

 外交と信頼醸成によって成り立つ安全保障の原則を置き去りにしてはなるまい。違憲の疑いのある安保関連法に頼らずとも、既存の法律を生かし、対話を強化することなどで平和を維持する方策はあるはずだ。平和憲法の理念に立ち戻って冷静な議論を深めるべきだ。

(2016年9月19日朝刊掲載)

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