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社説・コラム

社説 もんじゅ廃炉へ 核燃サイクル見直しを

 世界に衝撃が走ったナトリウム漏れの重大事故から、まもなく21年になる。福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」について政府は遅まきながらも当然の選択肢にたどり着いた。

 菅義偉官房長官は「廃炉を含め抜本的な見直しを行う」と、関係閣僚会議で表明した。福井県など存続を望む地元に配慮したためか結論は年内に出す、と先送りしたものの廃炉への流れは確実といえよう。

 あの事故以来、現在の日本原子力研究開発機構に至るまで、運営母体のずさんさは一向に変わっていない。原子力規制委員会からも繰り返し批判され、事実上の運転禁止命令のほか、運営組織を変更せよという異例の勧告まで出た。それでも監督官庁の文部科学省とともに存続に固執してきたのは状況の変化を読み切れず、組織防衛ありきの官僚的体質にほかならない。

 存続は明らかに無理だ。1兆円を超す巨費を投じながら運転実績がほとんどない。再び稼働させるにしても5800億円の追加投資が見込まれ、維持費も膨らむばかりである。安倍政権としては世論も強く意識し、文科省サイドを突き放す格好で収拾を図りたいのだろう。

 しかし政治的な思惑や無駄遣いの観点だけで、問題を捉えるとすれば本質を外れている。

 エネルギーの自給をうたった「夢の原子炉」の挫折は何を意味するか。その総括と反省なくしては前に進まない。日本の原子力政策にとっては福島第1原発の事故とともに極めて重大な失態であることを、まずは政府与党が肝に銘じるべきだ。

 原発の使用済み燃料を再処理し、取り出したプルトニウムやウランを混合酸化物(MOX)燃料に加工して再利用する―。それが核燃料サイクルの仕組みである。もんじゅ稼働を大前提としていただけに廃炉となれば破綻同然の事態となるはずだ。なのに政府の認識は甘い。

 閣僚会議で確認した方針によれば従来の路線は継続し、もんじゅに代わる高速炉を官民で考える会議を置くという。もんじゅの前段階に当たる実験炉「常陽」の活用や、フランスの高速炉での共同研究も視野に入れているらしいが、いずれも先行きが見通せないものばかりだ。

 核燃料サイクル政策の柱である青森県六ケ所村の再処理工場の現状も見過ごせない。トラブル続きで完成の延期が繰り返され、本格稼働のめどが立たないまま原発の使用済み核燃料は行き場を失っているからだ。

 さらにいえば日本が既に保有する48トンという大量のプルトニウムに国際社会の厳しい目が注がれることをどう考えるのか。とうに取り繕えない段階を迎えている現実を、見て見ぬふりをしているように思える。

 ここにきて廃炉の流れを後押しするのは経済産業省である。再稼働した四国電力伊方原発3号機のようにMOX燃料を一般の原発で使うプルサーマルがあるから大丈夫というが、それで追い付くとも思えない。むしろ原発再稼働を安易に急ぐ大義名分にするつもりではないのか。

 3・11で大きく揺らぎ、行き詰まった日本の原子力政策は、単にもんじゅの「切り捨て」で立て直せるはずもない。原発依存度を減らす原点に立ち返るなら、核燃料サイクル自体の抜本的見直ししか選択肢はない。

(2016年9月23日朝刊掲載)

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