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社説・コラム

『潮流』 見えない沖縄

■論説主幹・佐田尾信作

 那覇市内の料理店で久々にヤギを食した。刺し身とヤギ汁である。フーチバーと呼ばれるヨモギの葉がにおい消しの効果を果たすらしく、個人的にはあまり抵抗がない。

 沖縄県内のヤギの処理頭数は全国の8割近くを占めており、堂々たる「県民食」だろう。特に人気のある大腸や小腸は牛海綿状脳症(BSE)対策で廃棄が義務付けられていたが、ことし14年ぶりに流通が解禁された。すると「内臓の濃厚なコクが加わってこそ本物の味」という喜びの声を盛り込んだ記事が、地元紙の朝刊1面を飾ったほどだ。

 ヤギ汁にはレトルトもある。ところが那覇空港の売店では、探せなかった。豚肉製品なら品ぞろえの幅が広いが、ヤギは観光客受けしないのだろうか。駆け足で行き過ぎる旅人の視界に入らない食文化か。

 見えないといえば、多くの米軍基地は近くにいても見えない。自由に立ち入れる観光地ではないから一般のガイドブックに載らない。米軍北部訓練場へのヘリパッド建設に抗議運動が続く本島東海岸の東村高江は、まさに観光とは縁遠い。

 那覇から車に2時間乗り、その地を取材した。重機や資材の搬入を阻止しようと連日座り込む住民たちと、機動隊員や民間警備員らが対峙(たいじ)し、地元紙記者は交代で張り付く。幹線道沿いだけでなく、山中に入るとそこにもテント村がある。

 道路が使えないからと、民間や陸自のヘリを使った資材輸送も行われたばかりだ。これが同じ今の日本の出来事かと思うと、現地の記者たちとの会話も湿りがちになる。

 社会学者多田治さんは新書「沖縄イメージを旅する」の中で「必ずしも『青い海』や『癒やし』を求めるばかりが、ツーリストではない」と記す。旅人がもう一歩だけ踏み出せば、もう少し沖縄が分かるだろう。そして日本のことが分かる。

(2016年9月24日朝刊掲載)

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