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記憶伝承 広島に学ぶ 被爆・戦争語る人材育成 東京の国立市や厚労省

 被爆者の体験や思いを語り継ぐ人材を育てる広島市の「被爆体験伝承者」養成事業に着想を得た試みが、他地域や国に広がりつつある。東京都国立市は、広島市をモデルに「原爆体験伝承者」を育て、語り継ぐ場である講話会を公民館などで開催。厚生労働省も広島市の事業を参考に、戦争体験者の労苦を学び、次代に伝える証言者の育成に乗り出す。(田中美千子)

 9月上旬、国立市が市内の図書館で開いた講話会。伝承者の今野千穂さん(59)=国立市=が、長崎市で被爆した桂茂之さん(85)=同=の体験を切々と語った。「自分や家族に同じ事が起きたら…。置き換えて考えてほしい。周りの人にも話してみて」。約35分の講話を終えると、20人余りの来場者から拍手が湧いた。

 今野さんたち伝承者19人は3月、15カ月間にわたる市の研修を終えた。被爆者から当時の状況や今の心情を聞き、講話にまとめる方式は広島市と同じ。国立市の担当者は「前例があったから実現できた」。地元の被爆者団体から再三、平和発信の強化を求める声があり、実施を決めたという。

 7月に始めた月2回の講話会は好評で、近隣自治体や市内の学校からは伝承者の派遣依頼も。同市は「被爆地以外の自治体が平和を訴える意義も大きいと、あらためて実感している」とし、2期生も募る方針だ。

 厚労省は戦争の悲惨さを語り継ぐため、10月から、公募に応じた戦後生まれの約30人を研修する。同省援護企画課は「戦争をじかに知る人の記憶を分かりやすい言葉にして語れる人を育てる」と意気込む。

 研修は、戦傷病者の戦中・戦後の苦労を伝える国の「しょうけい館」(千代田区)など3施設に委託。期間は広島と同じ3年で、戦災を体験したお年寄りの話を聞き、講話にまとめる手法も似通う。広島市を事前に視察した担当者は「いい面は積極的に取り込んだ」。広島の伝承者との交流も予定する。

 広島市では今、伝承者74人が活動中。1~5期生計221人は研修を続ける。末定勝実・被爆体験継承担当課長は「証言者の高齢化は全国共通の課題。広島の試みを参考にしてもらうのは歓迎だし、市も養成事業に磨きをかけたい」と話す。

(2016年9月26日朝刊掲載)

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