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社説・コラム

社説 シリア停戦崩壊 難民問題の根幹を断て

 シリアの内戦が泥沼化の一途をたどり、このまま長期化する様相も呈しつつある。

 アサド政権と反体制派の停戦がまたしても崩壊した。米国とロシアが仲介した合意は、発効から1週間余りしか続かず、政権軍は反体制派への空爆を再び本格化させつつある。

 5年前に始まった内戦の根深さを、国際社会としても見誤っていたのではないか。中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」の流れによる独裁政権打倒の動きの余波と捉えられていたが、もはやカンボジアやボスニア・ヘルツェゴビナに匹敵する世界情勢を揺るがしかねない内戦ともいえよう。

 これまでに死者は30万人を超えた。国民の半数に当たる約1100万人が家を追われ、約500万人が難民として欧州など国外に脱出したといわれ、その対応に各国が苦慮している。

 シリア国内の状況を見ると、国の存続を揺るがす惨事がエスカレートしている。とりわけ激戦地アレッポでは、政権軍が補給路を断ち、住民約20万人が孤立状態に陥ったままだ。食料や水などが届かず、衛生状態の悪化も懸念されている。他の地域でも、民間人が巻き添えになった空爆が相次ぎ、一部で化学兵器やクラスター(集束)弾が使われたとの情報もある。まさに人道に反している。一刻も早い停戦が求められる。

 米国とロシアの姿勢は疑問である。今回の停戦において和平を定着させた上で過激派組織「イスラム国」(IS)の力をそぎ、将来は政権と反体制派が共同で移行政権を樹立する青写真を描いていた。しかし停戦の破綻後は非難の応酬を繰り返すばかりである。

 ここまで放置してきた国際社会の責任も重い。このままでは中東情勢は混迷し、世界各地にますます難民が押し寄せる混乱が続くことになりかねない。なのに危機感は十分だろうか。

 先週、国連はシリア難民や避難民などについて討議する初のサミットを開いた。個別の国レベルでは対応に限界がある中、各国が負担と責任を公平に分担すると約束した「ニューヨーク宣言」をまとめた。

 しかし難民を生む根幹の原因である、シリア内戦への取り組みが不十分なままなのは残念でならない。

 難民はあくまで内戦による結果だ。終結させない限り増え続ける。これまで国際社会は「米ロに任せておけばいい」というひとごとのような対応に終始してきたのではないか。このままでは、現在の膠着(こうちゃく)状況を打開できまい。内戦終結に向け、国際社会が足並みをそろえて外交努力を図る態勢が要る。

 日本の姿勢も問われよう。国連サミットには安倍晋三首相も出席し、28億ドル(約2800億円)の資金拠出や、5年間で最大150人のシリア人留学生を受け入れることを表明した。

 もっと踏み込むべきではないか。まず内戦終結のために米国とロシア、さらに中東諸国への働き掛けを強めてもらいたい。米ロ双方にパイプがあり、中東で一定に発言力がある日本だからこそ果たせる役割があろう。

 アフガニスタンでは日本が復興支援で主導的役割を果たしたが、シリア内戦で具体的に何をできるか。あくまで平和外交の視点から早急に考えたい。

(2016年9月29日朝刊掲載)

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