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連載・特集

「この世界の片隅に」展から <1> 19年4月「戦艦大和の入港」

 広島市西区出身の漫画家こうの史代さんの「この世界の片隅に」の原画や、11月12日に公開するアニメ映画の背景美術を紹介する特別展が同月3日まで、呉市幸町の市立美術館で開かれている。同館や中国新聞社の主催。戦中戦後の呉、広島を丹念に描いた展示作品約800点から5点を選び、同美術館の角田知扶(ちほ)学芸員が解説する。

世界一 呉市民の誇り

 漫画「この世界の片隅に」の連載第7回に登場するワンシーン。広島の江波から嫁いだ主人公すずが、呉港を見渡せる自宅近くの段々畑で、呉鎮守府軍法会議に勤める夫周作と戦艦大和の入港を見ている。

 時は1944(昭和19)年4月17日。定時で仕事を切り上げた周作が戻ったのは、夕方6時ごろであろうか。大和の呉入港の記録はこの月1回きり。物語はフィクションであるが史実には忠実だ。

 島影からゆっくりと現れる大和の雄姿を見たすずは「ありゃ何ですか」と問い掛ける。それほどまでに大きかったのであろう。東洋一の軍港で生まれた世界一の軍艦は、呉市民の誇りであったに違いない。作者こうのも、呉を描くなら大和をとの思いを込めた。

(2016年9月29日朝刊掲載)

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