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連載・特集

「この世界の片隅に」展から <2> 20年4月「飛行機雲」

穏やかな日 不穏な空

 1945(昭和20)年4月ついに、呉市民にも戦争がその輪郭をくっきり現した。空襲警報が解除され、洗濯物を干す主人公のすずが目撃する飛行機雲は、B29の偵察機の航跡。チョウやスズメが飛ぶ穏やかな日、反り返って見上げる一筋の雲はどこか不穏だ。

 沖縄上陸に備える米軍は、3月末から航空機雷をまいて関門海峡や呉港を封鎖、戦艦の動きを止めようとした。このとき難を逃れた大和を米軍は必死で探していた。山口県徳山沖に停泊する大和を、偵察機から撮影した写真が米国公文書館にある。

 作者こうの史代は、体験記に飛行機雲目撃の記述があったから偶然描けたと謙遜するが、綿密な時代考証が生み出した奇跡ともいえよう。(呉市立美術館学芸員 角田知扶(ちほ))

 「こうの史代『この世界の片隅に』展」は11月3日まで、呉市幸町の市立美術館で開かれている。美術館や中国新聞社の主催。11月1日を除く火曜日休館。アニメ映画は11月12日公開。

(2016年9月30日朝刊掲載)

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