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連載・特集

「この世界の片隅に」展から <3> 20年10月「口紅で描かれた原稿」

口紅で描く すずの心

 原作漫画では、主人公すずの夢想や想像は、現在進行している物語とは違うタッチで表現される。連載第41回では、すずが薬指に紅をつけて描くシーンがあり、作者こうの史代も実際に口紅を使って原稿を描いた。茶色がかった細い線は、リップライナーである。

 描かれるのは、夫周作と昔関係があったと思われる女性リンの半生。家が貧しく奉公に出され、遊郭に売られた。

 口紅の原稿は、濃度調整のためコピーして切り貼りされる。漫画は通常モノクロなので、口紅で描かれたと知らぬ読者も多かろう。赤い口紅の原稿をぜひ会場で見ていただきたい。すずの右手がこの口紅で描く意味を知ったとき、こうのの仕掛けた挑戦に驚嘆することだろう。(呉市立美術館学芸員 角田知扶(ちほ))

(2016年10月1日朝刊掲載)

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