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激動の時代 色鮮やかに 広島市現代美術館で「1945年±5年」展 

 現代から想起する戦中・戦後は、白黒写真のイメージに支配されがちではないだろうか。広島市現代美術館(南区)で開催中の「1945年±5年」展は、敗戦を挟む前後5年間の美術をたどり、その時代にも確かに存在した多様な色相を浮かび上がらせる。(森田裕美)

 約70作家の200点近くを展示。前半が日中戦争からアジア・太平洋戦争、後半が敗戦から占領下の時代に当たる。

 冒頭を飾るのが、小磯良平の代表作とされる少女群像「斉唱」(41年)や、モダンな装いの女性が華やかな中西利雄「帽子をかぶる女」(40年)。40年代前半の美術といえば、自由な創作を制限する軍国主義の影や戦意発揚の戦争画が思い浮かぶが、まずその先入観が揺さぶられる。

 一方で、松本竣介「議事堂のある風景」(42年)は、時代の行方を予見したような物悲しさが漂う。戦地を描いた作品でも、小磯や藤田嗣治らによるリアルな戦争画もあれば、南方に派兵された山下菊二や水木しげるが、現地の風景を淡々と捉えたスケッチもある。

 また、広島県北広島町出身の靉光(あいみつ)や、北脇昇らの前衛的な作品は、自らの世界のひたむきな追究を伝え、戦時下の美術が一様には語れないことを示す。

 「銃後」を描いた作品も興味深い。東山魁夷「戦時下の乙女」(44年)が描くのは、労働力不足を補う少女たちの勤労奉仕。新海覚雄「貯蓄報国」(43年)は貯金窓口の風景で、巨額の軍事費に充てるため、国が国民に割り当てた国債貯金が背景にある。

 息子が戦死した「模範遺族」の母を描いた向井久万「銃後を守る国防婦人会」(44年)や、兵士の亡きがらが強いインパクトを放つ小早川秋聲「國之楯」(同、68年一部改作)は作家の複雑な思いがにじみ、時局の要請との葛藤もうかがえる。

 敗戦を迎えると、多くの作家が廃虚や絶望感をモチーフとした。崩壊した建物などの風景画が大半を占める中、人物を描いて目を引くのが北川民次「焼跡」(45年)。うなだれる母親を、重そうな大根を抱えた幼い娘が慰めるように見つめる。子どもに未来への希望を託すようでもある。

 展示の最終章。作家がおのおの戦争体験に向き合い、多様な題材、手法で表現した作品で締めくくられている。丸木位里・俊による墨画「原爆の図 第1部 幽霊(再制作版)」(50年ごろ)、十字架にかけられた馬に戦争や人間の愚かさを重ねた浜田知明の銅版画「聖馬」(50年)、真っ赤な画面で核時代の異常さを表した古沢岩美の油彩「憑曲」(48年)…。

 激動の11年間が、白黒写真の中の特別な過去ではなく、色鮮やかに現在と地続きで見えてくる。10日まで。(敬称略)

(2016年10月3日朝刊掲載)

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