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原発と海 影響を分析 NPOの湯浅副代表 事故想定 解説を本に

「日本全体が当事者」訴え

 NPO法人ピースデポ副代表で、海洋物理学者の湯浅一郎さん(66)=写真・東京都小金井市=執筆の「原発再稼働と海」が、緑風出版から刊行された。国内の原発再稼働により懸念される海洋汚染と、それによる漁場や暮らしへの影響を原発ごとに解説。誰もが「当事者」として向き合う必要性を説いている。(森田裕美)

 福島第1原発事故(2011年)が起きてから海洋汚染の実態を調べ続けてきた湯浅さんが、日本列島の沿岸部に林立する他の原発について、同様の事故が起きた場合をシミュレーション。潮の流れや主要魚種の生活史にも触れながら、データを基に分析している。

 例えば、中国電力島根原発(松江市)。海に流出した放射性物質は対馬海流に乗って、遠く青森まで日本海側の各県の沿岸域に届く。瀬戸内海の伊予灘に面した愛媛県の四国電力伊方原発の場合は、より深刻だ。内海は閉鎖性の強い水域のため、一度汚染されると高濃度の状態が継続。食物連鎖構造への長期的な影響は避けられないという。

 それらを示した上で「日本列島に核施設を設置する適地は存在しない」と強調。立地自治体だけでなく、海の恵みで生きている日本全体が当事者であることを繰り返し訴えている。

 湯浅さんは大学・大学院生時代を仙台市で過ごし、近くの女川原発(宮城県)の反対運動に研究者として関わるようになった。1975年に通産省中国工業技術試験所(現産業技術総合研究所)に入って30年以上を呉市で暮らし、瀬戸内海の環境汚染問題に取り組んできた。現在は環瀬戸内海会議の共同代表も務める。

 本書のまとめで湯浅さんは、海などの生物多様性の保全を目的に、日本を含む157カ国が署名し、93年に発効した「生物多様性条約」を紹介。「その思想は、利益を生む対象として自然環境を利用し尽くすような経済優先の考えとは対極にある。人類は海からの警告に真剣に向き合い、社会構造を見直すべきです」と力を込める。

 A5判、226ページ。3024円。「海の放射能汚染」(12年)「海・川・湖の放射能汚染」(14年)に続く第3弾。

(2016年10月3日朝刊掲載)

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