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連載・特集

緑地帯 父のこと 四国光 <2>

 2015年春、「優しい視線・静かな怒り 四國五郎追悼・回顧展」が、被爆建物である旧日本銀行広島支店(広島市中区)で開かれた。ちょうど父の一周忌でもあり、私たち遺族にとって、あらためて父の遺言のような「戦争への怒り」「平和への思い」に向き合う機会となった。

 若い方から高齢の方まで、美術愛好家に限らない、幅広い人々が多数ご来場くださった。父の展覧会の特徴を挙げるなら、来場者の「普通さ」にあるのではないか。一般的な美術館やギャラリーとは異なる風景がそこにあるはずだ。

 それは偶然そうなったのではなく、まさに、父がそうありたい、と願ったものだった。「芸術を市民の手に」。その考えは、戦後まもない広島で峠三吉らと発行したサークル誌「われらの詩(うた)」や、父たちが創設した「広島平和美術展」に結実し、追悼展の場にも表れていた。

 静かに涙される方、じっとその場を動かない方。父の平和への思いが、来場者と共振し、旋律となって広がっていくようだった。米国の著名な歴史学者ジョン・ダワーさんが寄せてくださった温かなメッセージも心にしみた。

 この追悼展は、市民のボランティアと全国からの「志金」で成立した。「広島文学資料保全の会」の池田正彦さん、土屋時子さんを中心に、画家の西田勝彦さん、ガタロさんら多くの方々が手弁当でつくり上げてくださった。感想やメッセージが記されたアンケートも膨大な数になった。「父の思いを伝えていかなければ」。背中を押される思いがした。(四国五郎長男=大阪府吹田市)

(2016年10月4日朝刊掲載)

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