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連載・特集

緑地帯 父のこと 四国光 <3>

 2015年の春、NHK広島放送局によって、父を取り上げたドキュメンタリー番組「〝母子〟に捧げた人生~画家 四國五郎~」が製作、放映された。プロデューサーやディレクターからお話があったのは前年の夏だった。

 企画は試行錯誤の連続で、「息子として父親の死後、あらためて正面から向き合うことで、知らなかった父を再発見していく。そうした過程を描きたい」と提案を受けた際、私は「それは違います。私は父のことを最初から理解していたつもりです」と答えた。しかし、今から考えると、父の一途な心、あれほどの覚悟を理解してはいなかった、と思う。

 取材を受けたり追悼展を進めたりする中で、父が書き残した膨大な日記や原稿を読み直した。私が思っていた以上に強靭(きょうじん)な、執念といってもいい、父の「平和への信念」がそこにあった。

 父は穏やかで物静かな人だった。しかし、その穏やかさからは想像できないような、「自分が体験した戦争を、何が何でも描き伝えたい。伝えなければいけない」という、強烈な信念を抱き続けていた。隠れて書いた記録をシベリアから持ち出した時は、命を懸けていた。峠三吉と「原爆詩集」や、街頭に張り出す「辻詩」を作った時は、逮捕を覚悟していた。

 「戦争の酷(むご)さ、平和の尊さ」を、父は母子像に塗り込めた。NHKの製作陣の奮闘で、素晴らしい番組に仕上がった。全国放送の後、海外約100カ国へ放送もされた。「伝えてくれ」と母子像に託した父の遺言を伝える番組となった。(四国五郎長男=大阪府吹田市)

(2016年10月5日朝刊掲載)

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