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社説・コラム

社説 廃炉費用の負担 新電力に転嫁 おかしい

 電力の小売りが4月に全面自由化されて半年が過ぎた。料金はもちろん、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる電力の比率が高いかどうかなども考えて、電力会社を消費者が選べる時代になった。

 なのに原発の廃炉費用を、新規参入の電力会社(新電力)の電気料金にも上乗せする案の検討が経済産業省の有識者委員会で始まっている。新電力が原発による電力を調達しているかどうかは問わない。つまり、原発による電気を使っていない人にも廃炉費用の負担を求める考え方であり、承服しかねる。

 大手電力が市場を独占し、地域で統一された電気料金に廃炉費用を安易に上乗せした時代に逆戻りさせようというのか。

 これから自由化が浸透すれば、大手電力の廃炉費用の上乗せ分は競争の足を引っ張る。新電力のシェアが拡大すればするほど大手電力の顧客は少なくなり、1人当たりの上乗せ分は高くなる。それを見越して出てきたのが今回の案なのだろう。

 そもそも露骨な原発救済策と批判されても仕方あるまい。電力会社が持つ送電線の利用費用に上乗せする形で、新電力を含め全ての事業者に廃炉費用を負担させる仕組みからして、明らかに原発を優遇している。

 新電力に乗り換えた消費者もこれまでは原発で発電した安い電力を使ってきたのだから廃炉費用も負担すべきだ―。政府の言い分なのかもしれない。

 しかし以前なら地域独占で電力会社を選べなかったことを考えると、理不尽と言わざるを得ない。これで消費者の理解が得られるだろうか。

 新電力や消費者団体から異論が相次いでいる。その声に政府は耳を傾けるべきだ。

 同時に、原発のコストについても考え直す機会にしたい。政府は他の発電よりも安価だと強調して「重要なベースロード電源」と位置づけている。だが今回のような救済策が本当に必要なら、実は安くないということを認めているようなものだ。

 さらに言えば東京電力福島第1原発の事故処理費用と一緒に考えている点も見過ごせない。まずは国内の原発の廃炉費用を送電の料金に上乗せする仕組みをつくり、その仕組みを使って福島第1原発の廃炉費用も回収する思惑が透けて見える。

 確かに東電の経営は厳しい。原発事故の費用は約11兆円と想定されているが、廃炉にしても汚染水対策にしても出口はいまだに見えず、数兆円規模で拡大する見通しになっている。

 だが原発全体の廃炉の枠組みと東電への支援策とは当然、切り分けて考える必要がある。

 電力小売り自由化とともに新規参入企業は少しずつ増えているものの、企業や家庭の新電力への切り替えは限定的である。

 とりわけ中国地方は関東や関西と比べると低調といってもいい。大手電力が割安プランを提示するなどして料金で差がつきにくい面もある。太陽光発電の業者は優遇制度が見直され、経営が厳しくなっている。そうした中、新電力に廃炉費用の負担まで求めれば公平な競争を妨げることにならないか。

 廃炉を含む原発のコストは原発による電力の価格にそのまま反映させた方が分かりやすい。それが自由化の趣旨にもかなうことを政府は認識すべきだ。

(2016年10月7日朝刊掲載)

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