×

連載・特集

緑地帯 父のこと 四国光 <5>

 埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館で今夏、3カ月間にわたり父の展覧会が開催された。絵本「おこりじぞう」原画展や「母子像」展など、テーマを絞った小規模なものは東京で開かれたことがあるが、総合展としては関東圏で初めてだった。同館の岡村幸宣(ゆきのり)学芸員が広島での追悼展に来られ、その場で「丸木でぜひやりたい」と言ってくださった。

 父と丸木位里・俊夫妻は浅からぬご縁があった。1950年、「原爆の図」展が初めて広島で開催された際、父や峠三吉ら「われらの詩(うた)の会」が実質的に運営した。父はその時に初めて丸木夫妻と会うのだが、それ以前に、特に俊さんのデッサンが好きで、何かと参考にしていたようだ。お会いしてからも何度もアドバイスを受けたと日記に書いている。丸木美術館で展覧会を開くと父が知ったら、心底喜んだと思う。

 会期中の8月6日、同館恒例のイベント「ひろしま忌」が開かれた。俳優の木内みどりさんが、原画をスクリーンに投影しながら「おこりじそう」を全身全霊で朗読され、私も自然と涙がこぼれた。呉市出身のサックス奏者坂田明さんによるライブ演奏、続いて、館の裏を流れる川での灯籠流し。坂田さんの「俺さ、四国五郎さんの絵はがき2枚持ってるよ」とのお話もうれしかった。

 近現代史研究者の小沢節子さんと広島大准教授の川口隆行さんによる、父についての対談も行われた。美術界の中で曖昧な位置付けにとどまっていた父の表現活動の再評価につながれば、と思う。(四国五郎長男=大阪府吹田市)

(2016年10月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ