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社説・コラム

社説 次期国連事務総長 機能不全を食い止めよ

 次期国連事務総長に、元ポルトガル首相のアントニオ・グテレス氏が内定した。シリア内戦や難民問題、北朝鮮の核・ミサイル開発、気候変動など国連が抱える課題は山積する。潘基文(バンキムン)事務総長の在任10年で停滞し、機能不全に近い国連の調停能力は回復するのだろうか。

 過去の事務総長は外交官出身者が多く、一国の首相経験者は初めてだ。「安全保障理事会が密室で事務総長を選出してきた」という加盟国の批判を受け、透明性を高めるため全候補者への公聴会を取り入れたことも異例である。実務能力もさることながら、常任理事国の思惑に左右されにくい人選を求める空気があったに違いない。

 内定後の演説でグテレス氏は「安保理の迅速な意思決定に感動した」とした上で「安保理の結束を象徴するものであってほしい」と注文した。まずは安保理に花を持たせながらも、自信の程を見せた感があろう。

 歴代事務総長を顧みれば、7代目のアナン氏(ガーナ出身)のように「国際テロやエイズなど新たな試練に立ち向かった」としてノーベル平和賞を受賞した人物がいる。一方で米国と対立した6代目のガリ氏(エジプト出身)は再選を阻まれ、1期で退任を余儀なくされた。

 重要な問題であるほど常任理事国の支持が不可欠になり、事務総長だけでは対処できなくなる現実がある。だが、米欧とロシアのさや当てがこれ以上続くようなら、国連の機能不全が回復できないものになろう。

 事務総長は国連の行政職員のトップである。国連憲章は、世界の平和と安全の維持を脅かすと認める事項について安保理の注意を促す権限を与えている。国連の価値と権威を掲げ、平和を守るために発言し、行動することが求められるはずだ。

 喫緊の課題はもはや「人道危機」と憂慮されるシリア内戦と難民問題だ。これまでに内戦の死者は30万人を超えた。国民の半数に当たる約1100万人が住む家を追われた。約500万人が難民として欧州など国外に脱出したといわれ、その対応に周辺各国が苦慮している。

 グテレス氏は難民問題の専門家でもある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の組織改革を進める一方で、西欧諸国の積極的な関与を主張し、日本の難民認定制度を「限定的だ」と批判したこともある。政治力による調停とともに、難民キャンプなどに要員を送り込む「現場主義」を貫いてきた。

 グテレス氏には就任早々、手腕の発揮が求められよう。

 日本政府は、グテレス氏の次期事務総長内定を歓迎している。安保理改革を通じた常任理事国入りに協力を得たい腹積もりだろう。ただ難民問題で国際社会に責任や負担を分かち合う機運がより高まれば、日本も資金拠出だけではなく、人的貢献を求められよう。そこでいかに平和国家らしい貢献をするか、日本国内の議論が必要だ。

 潘氏は国連創設70年を迎えた昨年、「国連の青い旗は今も人類全体にとって希望の印だ」と述べた。国連平和維持活動(PKO)部隊の兵士らによる不祥事も相次ぐ中、信頼失墜の芽がないではない。UNHCR改革の実績があるグテレス氏は、国連組織そのものの改革にも取り組まなければならない。

(2016年10月8日朝刊掲載)

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