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社説・コラム

天風録 「杉山さんを送る」

 名古屋城の天守閣を、昔ながらの木造で建て直すのかどうか。目下、市議会の焦点らしい。名物市長の河村たかし氏が推し進めるプロジェクトは慎重論も根強く、先行きはまだ見通せない▲大胆な言動で物議をかもす市長にも膝を打つ施策がある。戦時下の空襲負傷者への見舞金を独自に支給する、全国でまれな制度もその一つ。市民のつらい記憶を刻むため、おととし「民間戦災傷害者の碑」も建立した▲そんな市長の背中を国会議員時代から押し続けたのが先月、101歳で旅立った杉山千佐子さんだ。原爆以外の戦災救済が置き去りの戦後。米軍の空襲で左目を失い、障害を抱えながら国の補償を求める組織を独力で立ち上げ、運動に生涯をかけた▲大きな眼帯に車いす。その姿を広島でも見かけたことがある。国の援護策を勝ち取るために「被爆者と戦災者が手をつなごう」と繰り返した訴えを、私たちはどこまで受け止めてきたか▲ノーベル平和賞はコロンビア大統領に決まった。むろん大きな意義がある。ただ本当の意味で平和のとりでを築けるのは、VIPではなく惨禍を肌で知る人たちの声であることも忘れまい。きょう名古屋で杉山さんを送る会がある。

(2016年10月8日朝刊掲載)

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