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社説・コラム

社説 コロンビアと平和賞 真の和平への追い風に

 コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領に、ことしのノーベル平和賞が授与されることが決まった。

 同国では50年以上にわたって悲惨な内戦が続く。子どもたちが誘拐されゲリラ戦闘員にさせられてきたほか、政府軍による虐殺も報告されている。今回の授賞は、ゲリラ側との和平交渉に一定の道筋をつけたことが評価されたといえる。

 ただ肝心の和平合意は、今月2日の国民投票で否決されたばかりである。このまま紛争に舞い戻らせてはならない―。今回の平和賞は、こうした国際社会の意志を反映し、和平を後押しする狙いがあるのは明らかだ。

 コロンビアで、左派ゲリラのコロンビア革命軍(FARC)と政府との戦闘が始まったのは1960年代にさかのぼる。ゲリラ側は麻薬の密売や誘拐による身代金を収入源に政府との戦闘やテロを繰り返した。

 内戦の犠牲者は約22万人、国内避難民は500万人以上になる。一時は国土の3分の1を実効支配したという途方もない巨大組織である。

 サントス氏は、国防相時代にはゲリラ掃討に力を入れていた。しかし2010年に大統領へ就任すると一転、ノルウェーなどの仲介の下で和平交渉を進めてきた。ことし9月の歴史的な和平合意は、その粘り強い交渉力と手腕なくして実現できなかったに違いない。

 ただノルウェーの国会から影響を受けるとされるノーベル賞委員会の決定に、コロンビア国内でも賛否の声があるのは確かだろう。国民投票で反対を投じた側からは「露骨な内政干渉」などの受け止めもあるという。

 和平合意の是非を問う国民投票で強い反対運動が起き、極めて僅差とはいえ賛成を上回った事実はやはり重い。武装解除とともに、元戦闘員の減刑や、FARCメンバーに国会で議席を与えることなどが合意内容に盛り込まれた点について「市民を虐殺したゲリラに対して甘すぎる」などの批判が噴出したことは、内戦の犠牲者からすればやむを得ない面もある。

 ただ、この否決は国民が和平自体を拒絶したという意味ではなく、あくまでその方法論についての疑問符だということも頭に置くべきだろう。

 その意味で今回の平和賞が大統領個人のあらゆる判断にお墨付きを与えたとはいえまい。これからは大方の国民に理解が得られる和平プロセスを示し、再交渉を進める必要があろう。

 FARCの側も、過去の犯罪行為について開き直るのではなく国民の怒りの背景にしっかり向き合い、あらためて和平の実現のために政府側に一定に譲歩することが求められよう。

 ノーベル賞にかかわらず、国際社会がコロンビア和平の行方に強い関心を抱くのは、世界各地の混乱を収拾するモデルとして重要な意味を持つからだ。

 例えば政府と反体制派の戦闘に加え、過激派組織「イスラム国」(IS)勢力の伸長で泥沼化しているシリア内戦である。数百万人が難民となっている。さらに中央アフリカなどでも地域紛争が絶えない現実がある。

 コロンビアで真の和平が実現すれば、世界全体にとって希望の光明となり得よう。コロンビアへの関心をあらためて強め、和平交渉をサポートしたい。

(2016年10月9日朝刊掲載)

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