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社説・コラム

社説 米大統領選 非難より政策聞きたい

 個人攻撃の応酬で米大統領選は泥仕合に陥っていよう。

 2回目となるテレビ討論会は先週発覚した共和党のトランプ氏による過去の女性蔑視発言を発端として両候補の舌戦が展開された。民主党のクリントン氏が責め立てれば、トランプ氏もクリントン氏の夫である元大統領の過去のゴシップを引っ張り出して反撃してきた。

 互いの言葉を遮って非難を繰り返した様子は見苦しい。1回目のテレビ討論こそ政策論争がいくらか見られたものの、今回は政治討論会と呼べる内容でない。米国民や国際社会が注視する政策が置き去りにされたまま次の大統領が決まるとすれば、ゆゆしき事態である。

 特にトランプ氏は大統領候補としての資質すら問われよう。女性蔑視の発言は言語道断であり、品性が疑われるのに、謝罪しながら「ロッカールームでの軽口だ」と受け流した。共和党内からも批判が相次ぐのは無理もない。ライアン下院議長が「もう擁護しない」と述べたのをはじめ、選挙戦からの撤退を求める声まで上がる。

 一方のクリントン氏も有権者の不信感を拭い去ったとは言い難い。国務長官時代に私用メールを公務に使った問題が尾を引くのに加え、陣営幹部のメール2千通が告発サイトに新たに暴露された。トランプ氏に付け入る隙を与えているのは確かだ。

 米国内の主要新聞は「史上最低」の選挙戦と評しつつ、「トランプ氏に投票しないで」などと軒並みクリントン氏支持の立場を表明している。それでもなおトランプ氏が一定の支持率を集めるのはなぜか。既存の政治への不信感にほかなるまい。

 トランプ氏の陣営は「既存支配層との戦い」という構図を演出して不満を抱え、変革を求める労働者層を取り込んだ。今回の大統領選では民主党対共和党という構図が崩れているのだ。これも米国社会が抱える病巣を象徴しているといえよう。

 来月8日の投開票まで選挙戦は残り1カ月を切った。国内外に難題が山積しているというのに、危機的な事態と言わざるを得ない。不毛な非難の応酬はやめて、政治課題ともっと真剣に向き合ってもらいたい。

 国内でまず取り組むべきは雇用創出など経済対策だろう。景気を上向かせ、失業率を改善させる手だてと格差是正への道筋こそ語らなければならない。

 両候補とも反対の立場を取っている環太平洋連携協定(TPP)についても、主導した国としての責任がある。それに代わる通商政策の在り方までしっかり論じ合うべきだろう。

 米国の外交政策が国際社会に与える影響も軽視してもらっては困る。目下の懸案であるシリア内戦や難民問題、さらにロシアや中国、北朝鮮などとの向き合い方をどう考えるのか。

 おおまかに言えばクリントン氏はオバマ大統領の路線踏襲が基本で、トランプ氏は移民制限や日本を含む同盟国に負担を求める内向き志向だろう。しかし大統領に就いたとして、どんな政策で裏打ちするのかが見えてこないのはやはり不安だ。

 とりわけ核超大国の指導者としての姿勢である。広島を訪問したオバマ氏が掲げる「核兵器なき世界」を巡る論戦が、ほとんど聞こえてこないことに被爆地として強い懸念を抱く。

(2016年10月12日朝刊掲載)

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