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社説・コラム

あすから新聞週間 情報の宝庫 深く広く

 15日から「新聞週間」。新聞の役割や継続報道の重要性などについて、元共同通信社記者で広島修道大教授の船津靖さんに聞いた。

元共同通信社記者 広島修道大教授 船津靖さん

一極集中の時代 地方紙の役割は大きい

放っておけば かき消される声伝えて

 「言いたいことを恐れずに言えるようになってよかった」。1991年のソ連崩壊で、言論の自由を得た住民の声だ。共同通信社のモスクワ特派員として見た現地の人々の姿が今も記憶に残る。表現の自由は生きる喜びそのものだと感じた。新聞の使命は、個人の自由や尊厳を守ることだ。

 権力や情報が東京に一極集中する中、地方紙の役割は大きい。東京で省庁や政治家を取材していると「国益にかなうか、どうか」という価値観にとらわれやすい。それとは別の、地元の生の声を伝えるのが地元紙だろう。

 例えば、原発立地を巡る問題で「わが町に建てられては困る」という住民の率直な気持ちがある。5月、米国の現職大統領として初めて被爆地・広島を訪れたオバマ大統領に対して「やはり謝ってほしかった」との被爆者の思いもある。中東の紛争地を長年取材して思うのだが、強い者に弱い者の気持ちは分からない。放っておけば、かき消されてしまう声を拾い、伝え続けなければならない。

 今春から大学教員に転じ、学生と話す機会が増えた。どうやら若者たちは「新聞に載っているすべての記事を理解しなくては」と気負っているようだ。それは新聞記者にも無理なことだ。いくら時間があっても足りない。ちょっと「小耳に挟む」程度で構わない。知らないことを知ればいい。その繰り返しで知識は蓄えられる。

 インターネットが普及してもなお、新聞ほど効率的なメディアは他にない。新聞社は毎日、世界に流通する膨大な情報を吟味し、紙面に載せる。限られた時間を大切に使うため、勉強や仕事の優先順位を決めるのに必ず役立つ。

 ネット検索は便利だ。でも、自分の世界に没入し、知りたいことだけを知ろうとするのは危険だ。犯罪や災害、税制の変更など知っておくべきことは多い。記事には生活のノウハウ、世界の人々の成功体験と失敗談が詰まっている。「三人寄れば文殊の知恵」というが3人どころじゃない。新聞を一覧し、広い社会の中にいる自分の存在を意識してほしい。 (奥田美奈子)

ふなつ・やすし
 1956年佐賀県伊万里市生まれ。東京大卒。81年共同通信社入社。エルサレム支局長、岡山支局長、編集・論説委員などを経て、ことし3月に定年退職した。4月から現職。専門は国際報道と米国・中東政治。著書に「パレスチナ―聖地の紛争」(中公新書)。

(2016年10月14日朝刊掲載)

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