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社説・コラム

社説 新潟知事に米山氏 民意は再稼働を認めず

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が最大の争点となった新潟県知事選で、医師で新人の米山隆一氏が初当選した。九州電力川内(せんだい)原発を巡る問題が争点になった7月の鹿児島県知事選に続き、有権者は再稼働に「待った」の意思を示したといえよう。

 無所属の新人4人による選挙戦は、共産、自由、社民の3党が推薦する米山氏と、自民、公明の両党が推薦する前長岡市長の森民夫氏による事実上の一騎打ちだった。米山氏は当選後「県民の命と暮らしが守られない現状では再稼働は認められない」と述べた。この初心を県政運営に生かしてもらいたい。

 東電は原発事故を起こした上、いまだ事故収束の見通しさえ立てられない。経営再建のため再稼働を計画しても、原発立地県で理解を得られないのは予測できたことだろう。全国市長会会長を務めた森氏も選挙戦で苦戦を強いられると「国や東電に言うべきことはしっかりと主張する。県民の安全確保が最優先だ」と踏み込んでいた。

 それでもなお、米山氏が6万票以上の差をつけて勝利した。この有権者の選択は重い。

 自民党を中心とする保守勢力に産業界、労組までが加わって原子力開発に前向きな知事を選挙で応援し、当選後は「地元の合意を得た」として原発を推進する―。そうした旧来の手法が通じなくなっている。再稼働を推進する勢力は「潮目」を見誤ったのではないだろうか。

 自民党内には「安倍政権の高い支持率が票に結び付かない。地方で見えない地殻変動が起きているのかもしれない」と分析する向きもあるようだが、あながち的外れではあるまい。

 泉田裕彦知事の突然の4選出馬断念を受け、米山氏が立候補を決めたのは告示日の直前だった。にもかかわらず森氏を破ったのは、福島事故の検証なしに再稼働の議論はできないという泉田知事の路線を引き継ぐと訴えたことが大きいだろう。

 東電が、柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に向けた審査を原子力規制委員会に申請してから3年が過ぎている。規制委が「適合」と判断した場合には、新知事は再稼働を認めるかどうかの判断を求められる。

 しかし、米山氏は地元紙新潟日報の取材に「原発が動かなくてもエネルギーが足りることは事故後に証明された。事故のリスクや放射性廃棄物処理の状況を考えると、現在の原発からは離脱せざるを得ない」と答えている。「脱原発」も提唱する点で注目すべき発言だろう。

 柏崎刈羽原発は、2007年の中越沖地震の際に火災を起こすなど、トラブルで県民の不信感は募っていた。東日本大震災後は県の技術委員会が福島第1原発の炉心溶融(メルトダウン)の公表が遅れた問題を指摘したことも記憶に新しい。

 しかも最近になって地震に伴う液状化リスクが新たに浮上した。規制委の審査は終盤を迎えていたが、一部の議論をやり直す事態を迎えているのだ。

 一方で、電力の安定供給には原発再稼働が欠かせない、安倍晋三首相は国政と新潟県政の調和点を探る努力を―という論調の報道も早速出ている。

 しかし、一地方選挙と侮ってはならない。国は原発再稼働を前提としたエネルギー政策を根底から見直すべきだ。

(2016年10月18日朝刊掲載)

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