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社説・コラム

社説 日ソ共同宣言60年 領土交渉の姿勢 説明を

 日ソ共同宣言の調印から、きょうで60年になる。

 日本は敗戦から11年後にようやく、この共同宣言によって旧ソ連との戦争状態に終止符を打ち、国交を回復させた。しかしこのときに両国が歩み寄れなかった北方領土問題はいまだに解決されず、平和条約も結べないでいる。その現実をあらためて重く受け止めたい。前に進む道を探らなくてはならない。

 択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の北方四島は、旧ソ連が1945年2月のヤルタ協定を根拠に占領した。日ソ共同宣言は平和条約を締結した後に色丹、歯舞2島を日本に「引き渡す」と明記している。しかし冷戦構造が続く中で前に進まないまま今に至ってしまった。

 91年に旧ソ連が崩壊し、ロシアになってからも日本からすれば有効な突破口を見いだせずにきた。「戦勝国の戦利品」とするロシアに対し、日本が「固有の領土」と訴える対立の構図は変わっていない。

 それどころか今世紀になってロシアが択捉島や国後島の軍事拠点化など、実効支配をなし崩しに進める振る舞いが目立つ。こうした中の領土交渉の道が険しいことは明らかだ。

 ただプーチン大統領と安倍晋三首相の首脳外交によって話し合いの機運が出てきたことは歓迎すべきだろう。

 2人の首脳会談は第1次安倍政権から14回に及ぶ。11月にはペルーで、12月15日には首相の地元の長門市で首脳会談を行う。これほど頻繁に両国のトップが顔を突き合わせて語り合うこと自体、隔世の感がある。互いの信頼を築くことが領土交渉の前提となるのは間違いない。

 気掛かりなのは、日本政府の北方領土問題に対する姿勢がこのところ、揺らいでいるように見えることである。

 プーチン政権は、この宣言が両国が批准した唯一の文書と認めており、事実上2島の返還で問題を最終決着させる姿勢を崩していない。これに対し日本は4島返還を求めてきた。4島の日本の主権が認められるなら実際の返還の時期や条件については柔軟に対応するとして、4島の主権は譲らない構えできた。

 最大のヤマ場となる長門の首脳会談にどう臨むのか。ここにきて外交政策の根幹に関わる方針転換が伝えられた。ロシアが「北方領土は日本に帰属する」と認めないままでも、領土が戻るなら平和条約を締結する方向で検討に入ったという。

 これが何を意味するのか。共同宣言に従って色丹島と歯舞群島の「2島先行返還」方式による打開を視野に入れているようだ。その場合、択捉島と国後島は継続協議として棚上げの可能性が出てきた。ロシア側にかなり譲歩することになる。

 国後島の出身者らからは「2島返還で終われば、この60年は何だったのか」という声も聞こえてくる。もし北方領土問題と向き合う基本的な姿勢を見直すとすれば、まずは国民に明確に説明すべきである。

 政府は1兆円を超える経済協力を先行させたいようだが、ロシアに「食い逃げ」されるリスクも指摘される。長門での会談の成果をてこに、来年1月の解散も取り沙汰されるが、そのために交渉を急ぐのはもってのほかである。前のめりになり過ぎず、冷静に備えてほしい。

(2016年10月19日朝刊掲載)

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