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社説・コラム

社説 生前退位 「国民の総意」どう反映

 天皇陛下の生前退位などを議論する政府の有識者会議の初会合が開かれた。論点は生前退位だけでなく、憲法における天皇の役割や公務負担の軽減、退位後の呼称など多岐にわたる見通しだ。国民の関心も極めて高い。掘り下げた議論を望みたい。

 有識者会議のメンバーは経団連の今井敬名誉会長ら計6人。安倍晋三首相は初会合で「予断を持つことなく、十分にご審議いただきたい」と呼び掛け、ゼロベースから議論する場としての位置付けを強調した。

 しかし一方で、政府は2018年の退位を想定しているとされる。菅義偉官房長官もきのうの衆院内閣委員会で、生前退位に関連する法整備について、来年の通常国会への法案提出を目指している考えを明らかにした。これではスケジュールありきになりかねず、予断を排した議論を担保できるか心配だ。

 政府はさらに、皇室典範に規定のない生前退位を可能にするため、今の陛下一代限りの特別法の制定を軸に検討を進めていると伝わる。

 12月に83歳となる年齢や健康を考慮すれば、時間的な制約があることは理解できる。比較的速やかに整えられる特別法で最小限の措置を講じることは現実的な対応といえよう。

 だからといって、一代限りの退位とする結論ありきで済ませていいのか。これからの時代の象徴天皇制や皇室の在り方など本質的な議論を深めることが求められている。

 陛下は、生前退位の意向をにじませたビデオメッセージの中で「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくこと」を念じていると明かした。国民に寄り添いながら築き上げてきた象徴天皇制のあるべき姿をしっかり継承したいという強い思いの表れだろう。

 そのためには皇室の安定が欠かせず、とりわけ皇族減少への対応は喫緊の課題といえる。現在の皇室の構成を見る限り、皇位継承権のある男系男子は限られる。過去には、対応策として「女性・女系天皇」や「女性宮家」の創設などが浮上したことがあるが、安倍首相はいずれに関しても慎重な姿勢を示しており、今回の有識者会議の議論からも切り離された。

 ただ、象徴天皇制の維持に心を砕く陛下の切実な思いに対する回答が、一代限定の退位にとどまるようであれば、皇族が減少し、皇室活動が先細っていく懸念は拭えない。先延ばしにはできない問題である。

 むろん全てを一度に決着させるのは難しい。特別法の制定を先行させたとしても引き続き恒久的な退位の制度をはじめ、皇室典範の抜本的な見直しを含めた議論を進める必要がある。

 憲法1条は天皇を国民統合の象徴とし、国民の総意に基づくと定めている。有識者会議の議論は透明性を確保すべきなのは言うまでもない。国会の与野党のみならず、国民的な議論につなげるためにも十分な情報開示が不可欠である。

 おそらく18年の退位から逆算するのだろう。通常国会への法案提出をにらみ、既に年明けにも有識者会議による論点整理が示されることが前提となっている。時間はほとんどないに等しい。その中で専門家だけでなく、幅広く国民の声をどう反映させていくかが問われる。

(2016年10月20日朝刊掲載)

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